冒険譚のラストシーンにて

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___赤子がぱちと目を開けて、わたしの姿を瞳に宿したとき。しばらく大きな目で私を見つめ、小さな手をふわふわと覚束なく伸ばしたとき。小鳥のようにまあるい笑い声をあげたとき。男がまた、情けない顔で泣いているとき。 わたしは初めて「永遠」を感じていた。世界の片隅で、この取るに足りない人間のいのちがふたつと、わたしと。時が止まったようでいて、なのにどうしようもなくこの瞬間が惜しくて切なく、こころの一番底から湧き上がってくる熱くて冷たい感情こそが、きっと「永遠」なのだと、そう思った。 わたしの命は永久にも思えるほど永いけれど。きっと時間の長さでは永遠を測れないのだろう。どんなに一瞬の時間でも、苛烈なまでに命を煌々と照らして心に焼き付いたとき、それが「永遠」なんじゃないか。唯一無二の、何があっても失われないものなんじゃないのか。 【 ___ああ。ああ、美しい子だ。わたしの永久の命をすべてかけて、お前に祝福を贈るよ。    。この男のもとで、永く永くしあわせに生きろ 】 すべて竜の言葉でそういった。瞳が熱い。網膜にこの男と赤子の笑顔を焼き付けようと躍起になればなるほど、視界が滲んだ。鱗を濡らしながらその隙間を伝って、鼻先からぽたぽたと滴っていくのを、くすぐったくなるような笑い声をあげて、ファリアが見ている。 男には解らない言葉だ。お前には解るか? お前が憶えていなくても、わたしがお前を忘れる日は永遠にないだろう。父と母と、幸せになれ。わたしがたったいま感じたような「永遠」をいつか識って、幸福に生きろ。 【    】。
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