冒険譚のラストシーンにて

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___私は走り出す。心臓が痛い。何もかもを失う予感が足首をつかんで、何度も何度も躓きながら外へ転がり出る。警報が鳴り響く街の中を、男たちは関所の方へ、女と子供たちは反対側へとかけていく。父が何度も指導して、覚えさせた動きだ。ちゃんとみんな有事に対応していて、ほっと息をついたら涙がせり上がってくる。 いや、まだだ。泣いてる暇はない。訓練通りなら、父は間違いなくあの燃え盛る関所の先頭にいるはずだった。あの場に行っても何もできないだろう、でも、悪い予感を振り切りたくて足を動かす。 大きな街の中を、避難する人々の流れに逆らいながら走っているとき。私はずっと、あの竜と過ごした雨の日のことを思い出していた。
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