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「ファリア!避難しなさい!!」
いつもとは全く違う恐ろしい声で叫ぶ父の声を受けながら、その腕に飛びつく。ああ生きていた。安堵したら腕と足が震え出す。溜息をついた後父は背をさすってくれたが、咎められても仕方ない。どう考えても私はお荷物だったし、燃えてもうほぼ崩れ落ちた関所の奥に見える敵軍は、数えきれない数だった。でも父は私にそれ以上何も言わず、敵を睨んでいる。好転しようのない状況だと悟っているに違いなかった。
山の資源をめぐって諍いが起こるだろうことは目に見えていたが、まさか一切の友好的手段をすっ飛ばして攻めてくるとは。もう、私たちとの関係悪化を何一つ危惧していないということだ。___街ごと何もかも、奪い取るつもりで。
ぞっとする。戦うことになる男たちは、隠れている女子供や老人たちは、奪うことに躊躇いのない獣たちと相対した時、一体どうなってしまうだろう?何もかも壊されて失うのかもしれない。そんな。
思わず父を仰ぎ見る。こころの決まりきった顔をしているから、私はさらにぞっとする。優しい優しい父がとる選択肢なんて、ひとつしかなかった。
「だめよ父さん!!いやだやめて!」
「ファリア。お前は避難所の母さんのところまで行って、大丈夫だからと皆に伝えてきなさい。早く安心させてやってくれ」
それは父の本心で、そしてこれから起きることを私に見せないための手段でもあった。絶対に絶対に離すまいときつくしがみ付いていたつもりだったのに、父の武骨な指が、この戦火に照らされながらあまりに優しく動くから。呆然と、私の指が父の腕から解かれていくのを見ていた。
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