冒険譚のラストシーンにて

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「俺の首を渡すから、誰一人も傷つけるな。山の資源もくれてやる。だが、この街の住民とその信仰を守ると約束しろ」 燃え墜ちた関所を踏みつけながら、数人の兵士を引き連れて敵将らしき男が進んできて、父はそいつにそう告げた。 街と人を守りたい。そして山を守りたい父には、父一人が死ぬ方法しか無かった。そしてそれを躊躇いなく選ぶ人だった。 いやだ!!!と叫ぶ私を、泣きながら街の兵士たちが止める。何千人の軍隊を前に戦わずして戦争が終わろうとしていたから。私のたったひとりの父の命を引き換えにして。 手を伸ばす。指の隙間から、父と二言三言喋った後近くの兵士を呼び寄せる敵将と、その場にゆっくりと座る父の姿が見えた。いま見えているものをつかもうとして腕をばたつかせても、水のなかのように滲んでぼやけて、何もかもが涙のなかに消えていってしまう。 ああ、消えないで。なくならないで。 _____、と、雷かとも思うような音を立てて。 涙で水没していた視界が急にクリアになったのは、とんでもない風圧でやってきたつむじ風が私の目から涙を吹き飛ばしたからだと理解できるまでに、随分かかった。 ”それ”は、真っ赤な雲を抱く真っ黒な空から垂直に墜ちてきて、暴風を巻き起こしながら灼熱の炎の中に降り立った。大きな風を受けて一度大きく炎は燃え盛る。しかし”それ”の尾が炎に塗れた地面を這うと、恐ろしくあっけなく消えた。 文字におこすことすら禁忌に感じるほどの邪悪な咆哮をあげて、体中のあらゆる鱗を逆立てる、その巨大な怪物は。 私と父の「永遠」の中に鎮座する、美しくて優しい、あの竜だった。
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