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炎の消えた闇のなか、新月のような色をした鱗が煌めく。
竜が口を閉じて父と敵将に向き直っても、竜の恐ろしい咆哮はいつまでも街に木霊していた。敵将が悲鳴を上げながら自軍の方へと駆けていく。
じっと父を見つめる竜。それを呆然と見ている父。
竜はその長い首を僅かに下した。
他の者には、威嚇のように見えたかもしれない。だが私と父には解った。
見覚えのあるそれは、あの竜の「別れの挨拶」だった。
少し下した首を、またもたげて。
なにかを叫ぼうとした父を制するように、竜が再び咆哮する。
” お前に瀕死の傷を負わされてから20年、お前を殺す日を夢見て今日まで来た!!何と言う無様な姿だ!お前を殺すのは、この私だ!! ”
私や父を傷つけまいと、いつも小さく穏やかな聲で囁いていた竜が。いまや風の刃となって人間たちに吹き付けることも構わず、大声で叫ぶ。びりびりと肌を刺すほどの衝撃と鋭さ。その大きく張り上げるような台詞は、まるで茶番劇の役者のようで。私は彼が演じようとしている役どころを理解して、悲しくて胸が痛くて泣いてしまう。
” 私の獲物だ!私以外に、この男を傷つける者を赦さぬ!この街を壊すものを赦さぬ!私の復讐を穢すものを赦さぬ!! ”
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