冒険譚のラストシーンにて

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___竜は、植物であった。 世界の神聖から生じ山の上で目醒め、陽と雨と風によって生かされ、大した思考をせず眠り、自ら殖えることはない。だから長い年月を掛けて人間たちが栄え、山が拓かれ森が失われ空や海が濁ったとき、自然界からいちばん最初にいなくなるのは、永久の命をもつはずの竜たちだった。消えてゆく竜たちには怒りも哀しみもない。彼らはただそこにある大樹のようなものだったから。 でも、たった独り遺されたわたしだけが、たった独りで思考するしかなかったわたしだけが、そうではなかった。植物ではなくなってしまった。だから自然が侵されて神聖が弱まりきったって、独り生き永らえてしまったのだ。何のために生まれてきたのだろう。何のために数千年も生きるのだろう。思考を止められず植物に戻れないわたしは、はやく何もかもを終えてしまいたくて、ずっと眠っていたかった。 一度識ってしまった感情は、手放すことはできないとわかっている。 喪われた仲間たちへの追慕。残されたことへの寂寞。わたしの眠りを妨げたものたちへの憤りや殺意。そして、孤独。 孤独はもっとも恐ろしい感情だった。夜の帷や、朝の陽光、木々のざわめきさえ苦痛に変える。孤独を知りながら生きていくには、わたしの命は永すぎたのだ。夢の中の過去へと逃げ込みたくなるほどに。
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