月夜の晩、神様に出会う

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「何をしに来た? 丑の刻参りにはまだ早いぞ」 「やりませんし……。鳥居から人が飛び降りたのを見て、気になって確かめに来ただけです」 「お主、変態か?」 「ええっ……神様に言われたくありませんけど」 神様に変態なんて言われるなんて心外だ。 でも不審者に間違われても仕方がないこの状況。 どう考えたってこんな暗闇のなか神社に来ている私は怪しさ満載。 ……いやいや、違う違う。 この神様の方が怪しいし。 「それより、鳥居の上にいたのは神様ですか?」 「ああ、いかにも」 「バチあたりですね」 私の言葉に神様は一瞬大きく目を見開いた。しまった失言だったかと慌てて口をつぐんだものの、神様はふっと遠くを見る。 「この鳥居の上から見る街並みが綺麗なのだよ。昔は街の明かりなどなく、ここから夜空に輝く星がよく見えた。時代は移り変わり、見える星は少なくなったが、その代わり街の明かりが星のように煌めく。私はそんな風景も好きだな」 「そう、ですか……」 私は夜空を見上げる。 ここは街から少し離れた小高い丘の上。街灯なんてあってないようなもの。民家だって少ない。いくら月明かりが綺麗だといっても、夜の暗さには勝てない。だから星がよく見えると思っていたのだけど。 「私にとってはここの夜空はものすごく綺麗です。街に下りればこんなに星は見えないですよ。ていうか、鳥居の上からは夜景が見えるんですね」 「見るか?」 「えっ?」 「鳥居の上から」 神様はすっと指をさす。 その指先を追えば、真上にある石でできた大きな鳥居。 まさか、この上のことを言っているの? 「きゃっ」 急に腰が引かれて神様と密着した。 至近距離で見る神様は月明かりに照らされてとても神秘的。長い睫毛が揺れバチンと目が合う。 え、これってどういう状況……? その刹那、ふわっと体が浮き上がる感覚に慌てて神様にしがみついた。 「ちょっと神様、下ろしてくださいっ!」 「騒ぐな馬鹿者」 一瞬で視界が高くなる。 目の前に広がる夜景に、思わず息をのんだ。 「どうだ、綺麗であろう?」 「すごいっ! 凄いです、神様!」 開けた視界には街の明かりがキラキラと輝く。 それほど遠くも高くもない場所だと思っていたのにまるで夜の海に星がちりばめられているかのように光が揺らめいていた。 あまりの綺麗さに私は言葉を失い、ここが鳥居の上で罰当たりなことも忘れてしばしその光景に見入っていた。
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