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大きな鳥居を先頭に、上に向かって緩やかな石段が伸びている。左右には石灯籠がぽつりぽつりと置かれていて、淡い橙の光りを放った。
私が見た鳥居はこの入口の鳥居ではなくて、石段を登った先にある鳥居のようだ。
先ほど見た人影はどこにもないように感じられるけれど、やはりあの鳥居まで行って確認しなくては心配で帰ることもできない。
悩むよりも先に足が前へ進んだ。
暗い石段を淡い光りがほのかに照らす。光りがあるとはいえ薄暗くおどろおどろしい。それなのにどういうわけか、怖いという感情はわかなかった。なぜなら私は以前にもこんな光景に遭遇したことがあるからだ。
霊感ゼロの私だけど、どうやら神様の類いは見えるようで。以前神様に出会ったときもちょうどこんな月明かりが綺麗で薄暗い神社だった。だから今回ももしかして、と思ったわけだ。
鬱そうと生い茂った木々の間を石段に沿ってのぼっていく。次の鳥居が現れる辺りは木々は少なく視界が開けて夜空がよく見えた。緩やかな風に乗って葉々が揺れる音が聞こえる。ほのかに甘い香りが鼻を掠めた。
「……いない」
その瞬間、目の前に人影が舞い降りた。
それは音もなく風のようにふわりと優雅に現れ――。
「こんな時間に珍しいな」
静かで落ち着いた声音が耳に届く。
絹のような緩やかな装束を身に纏ったその彼は、まじまじとこちらを見た。細く長い髪を一つに束ねているが、私にはそれが男性の姿に映る。とても繊細で綺麗だけれど、どこか儚げで危うい。
「こ、こんばんは」
「…………」
思い切って声をかけてみればその男性は顔をしかめる。そしてキョロキョロと辺りを見回してみてから、ずずいと顔を寄せた。
「お主、私が見えているのか?」
「見えていますけど」
「私が見える者がいるとは……ふむ、興味深い」
明らかにおかしい言動。
ただの変態か、それとも……。
私はゴクリと息をのむ。
そして思っていた疑惑を恐る恐る口にした。
「……実は神様とか言い出しませんよね?」
「神だが、なにか?」
そう、まるで私がおかしいとでも言わんばかりな口調であっさりと彼は答えた。
…………やっぱり。
疑惑が確信に変わる。
この人が本当に神様なのかどうか、疑う気はさらさらない。
だって私は過去に似たようなシチュエーションで神様に会ったことがあるからだ。
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