勿忘草停留所

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4月の初めのある日、天気は予報通りの雨で、徐々に雨粒が大きくなり激しくなるのを雨音が伝えてくる。 大きく、激しくなる雨音と利用客の少ないガランとしたバス停はいつもより強く哀愁を漂わせているように感じる。雨脚が強くなればなるほどバス停は寂しさを帯びていく。 そんな場所にいると色々と嫌なことを思い出してしまう。 思い出したくもないことを思い出しそうになってしまうから、雨の音が少しでも入らないようにとイヤホンを挿し、日課のように聴いているバラードを流す。 どんなに素敵な曲でも毎日聴いていたら流れる歌声とリズムを聞き流すようになってしまうのは音楽の宿命なのかと思う。気が付けば長めのバラードはアウトロ部分に差し掛かっていた。 バスが到着するまでまだ少し時間がある、音楽だけで気を紛らわすのは無理があったのか一瞬、雨の日に見たあの景色を思い出してしまう、景色だけでなく雨のにおいに混じる不愉快な鉄のような匂い、赤く色を変え流れる血と雨の混ざった液体の感触も思い出してしまって胃の中の内容物がこみ上げてきそうになるのを何とか抑える。 だから雨の日は嫌いなんだ、嫌でもあの時の事を思い出してしまうから。 きっと脳裏に焼き付いた光景、感触、匂いはたとえ悠久の時を経たとしても僕の脳に残り続けるだろう。
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