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優鶴も立ち上がり、悶えている男のポケットというポケットに手を突っこんで抑制剤を探した。少し離れたところに泥だらけのポシェットがあったので確認すると、注射器のような形をしたそれが入っていた。
自身の身体を抱きながら苦しそうな男の太ももにカチッと針を打つ。みるみるうちに男の呼吸は落ち着いていった。
雨音がようやく耳の近くに聞こえ、優鶴は自分がひどく喉が渇いていることに気がついた。力んだり叫んだりと身体を酷使したからだろうか。雨粒を拾う手のひらを見ていると、煌の腕にボールペンを刺したときの感触がよみがえってきて、怖くなった。
「……気をつけて、帰ってくれよ」
雨とともに唾を飲みこんで言うと、優鶴は使用済みの注射器を男の傍に置き、一足先に公園を出ていく煌を追いかけた。
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