161人が本棚に入れています
本棚に追加
自分の腕を噛んで耐えながら、優鶴は時が過ぎるのをひたすら待った。揺さぶられるたびに薄い尻が煌の股関節に当たり、自分の骨がギシギシと嫌な音を立てて壊れていくような気がした。
途中から仰向けにされた。優鶴の腰を浮かせるように抱えた煌に何度も突かれ、左肘を舐められながら腹の上に精を吐き出された。
どれだけの時間が経っただろうか。ようやく解放されたのは、外に聞こえていた雨の音が止んだ、静かな明け方のこと。玄関ドアを囲む曇りガラスからは、青白い朝の光が射しこんでいた。
煌は優鶴のシャツを抱きしめながら、優鶴に背を向けて眠っている。アルファの異常な回復力のおかげなのか、煌の傷ついた腕の傷は既にかさぶたが覆っていた。煌が怪我をしていたという証拠は、いまや煌や優鶴の身体や玄関のあちこちに付着して固まった血だけ。
優鶴は痛む上半身をゆっくりと起こした。煌から血と泥で見るも無残になったシャツを抜き取ろうとする。だが、アルファの本能なのか、オメガの匂いのついたシャツを煌は眠りながらも離してくれない。
それでも引っ張っているうちに、優鶴はだんだんと泣けてきた。悔しさとも、苛立ちとも違う。知らない男の手形をつけたシャツを大事そうに抱きしめる煌のことを、心底憎いと思った。
前に『煌がどんなに嫌なやつでも、呆れることをしても、憎いなんて思わない』と豪語したことがある。けれど優鶴は、このときハッキリと思った。この男が憎い。
同時に思い知る。憎いだけなら、きっとこんなにも涙は出ないということも。
シャツに埋もれる煌を見ていると、刺すような痛みで涙が出てきてしょうがない。苦しかった。信じていた弟に乱暴されたこともショックだし、名前も知らない他人のオメガの代わりにされたこともショックだった。
目覚めた煌が自身の行いの跡を見たらどんな反応をするのか。容易に想像できてしまうことが怖い。どうして拒めなかったんだろう。拒んでいたら、自分も煌も『事故』で流すことができたはずなのに……。
寝ている煌からシャツを無理やり引っ張って奪う。自分には匂いなんてわからない。雨を吸って重たくなった、泥と血で汚れたワイシャツにしか見えない。
手にしたそれを、優鶴は玄関に乱暴に投げつける。三和土に触れた太ももが冷たかった。
最初のコメントを投稿しよう!