ベータの兄と運命を信じたくないアルファの弟

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 やがてベータと思われる演劇部員や教師によりオメガの男子生徒は救出され、細い筒状の注射器で『フェロモン抑制剤』を細い太ももに打たれていた。  アルファがオメガのうなじを噛むと、『番』という本能レベルでの婚姻関係が成立するとされている。中には夢物語のように『運命の番』という唯一無二の相手と出会えるアルファとオメガも存在するらしい。だが、優鶴がこのとき目の当たりにしたのは、ただの暴力だった。  初めてオメガのヒートを見たときの恐怖や、助けられなかった罪悪感があるのだろうか。優鶴はオメガを蔑視する人間に出会うと、今でも少し気分が悪くなるのだった。  刑事たちの聴取に潰された朝の時間を取り戻すため、優鶴は急いで洗面所に向かい、鏡の前で髪をセットする。煌とは違い、鏡に映る自分はなんて平凡な顔だろうか。  目尻の下がった奥二重に、特徴のない鼻と薄い唇。髪も色が少し薄い程度で、ごく普通のマッシュヘアだ。一年半付き合ったベータの彼女からフラれたときの言葉も、『優鶴君のザ・ベータって感じに飽きたっていうか……』だった。  出かける前に洗濯乾燥機を回していこうと、優鶴は再び階段を駆け上がった。弟の部屋のドアを叩き、 「洗濯機回しちゃいたいから、洗いもんあるなら出せよ」  と言うが、煌は返事をしない。いつものことなので「じゃあ行ってくるからな」と続ける。階段を数段降りたところで、反応のなかったドアがガチャリとわずかに開いた。 「……パソコン直したらくれるって言ってたアイス、まだもらってない」  低くてかすれた声に、優鶴は「ゲッ、覚えてたか」と笑って返した。
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