ベータの兄と運命を信じたくないアルファの弟

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「自分のためっていうより、とりあえずおまえがどんな大学に行きたくなっても、払えるお金は用意しときたかったからな」  煌は短いため息をつき、「ウッザ」と優鶴を睨みつけて自分の部屋にこもってしまった。煌が食べ残したおかずを見ていると、煌のためによかれと思ってやっている自分の行動のすべてが間違っているんじゃないだろうかと思えてくる。そう考えては気分が落ち込んだ。  結局、煌はその後もまったく高校には行かなかった。担任教師と相談し、テレビ授業と添削課題でなんとか卒業はできたが、大学に関しては進学の意思を見せなかった。  それでも、優鶴は煌を諦めたくなかった。アルファ専門の大学じゃなくてもいいから、将来の選択肢が増えるように進学してほしくて、優鶴はいろんな大学や専門学校の入学案内を取り寄せた。資料を見せるたび、煌は不満そうに整った眉を歪ませた。  あるとき優鶴が会社から帰宅すると、リビングがぐちゃぐちゃに荒らされていた。椅子は倒れ、ソファの位置もおかしな場所にあった。カーテンも破かれ、皿も何枚か割れていた。泥棒が入ったのかと思ったが、あるものを見て優鶴はそれらが煌の仕業だとわかった。  キッチンカウンターの上に重ねて置いてあったはずの大学の入学案内が、すべてビリビリに破かれて床に散らばっていたのだ。反対に、両親と妹の遺影が微笑む仏壇だけは、手をつけられた痕跡がまったくなかった。  煌の内側に触れた気がして、優鶴は胸が締めつけられた。煌のペースを考えずに前へ進ませようとしたことに対し、罪悪感を覚えた。  煌が二階から降りてきたのは、散り散りになった大学の入学案内を手でかき集めているときだ。リビングに入ってきた煌は、「謝らねえから」とボソッと言った。 「べつにいいよ」  優鶴が怒ると思っていたのだろう。煌はイライラしたようにチッと舌打ちをした。 「その時代錯誤なアタマ、まじでどうにかなんねえの? 今どきアルファでも大学にいかない奴はいるし、親が死んでも働かない奴だってたくさんいる。あんたのその自己犠牲的な発想、見てて不快なんだよ」  自己犠牲と言われ、優鶴は「そうかもな」と納得の声を洩らした。自分だって大学がすべてだとは思っていない。ただ、煌には生きる目的を見つけてほしいだけだった。  そのまま切れ端をゴミ袋に捨てていると、自棄になった声が頭に降ってきた。 「自覚があるなら俺のことなんか放っておけよっ!」  煌の言葉にムカッときて、優鶴は下唇を噛んだ。集めていたゴミ袋を煌に投げつけると、破かれた紙が煌を包むように舞った。 「だったあれもめちゃくちゃに壊せばいいだろうがっ!」 「は……?」優鶴が指をさした先を見て、煌がゴクッと唾を飲む。
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