初雪が降るなんて聞いてないけど

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初雪が降るなんて聞いてないけど

 初雪を手にできれば、雪の精が現れる。そんなことが書かれていたのはどの本だったか。この街で初雪を手にすることなんてできるわけがない。  この街の初雪は毎年気づいたら深夜に降り終わっていて、アスファルトとビルばかりの土地では跡形も残りはしない。  十二月の初め、まだ真冬の寒さには早いぐらいの時期、それなのに今日はやけに冷え込む。少し前まではまだ暖かい日もあって、衣替えも終わりきっていなかった。  油断した。急いで引っ張り出してきたコートにマフラー。それでもまだまだ寒い。俺はマフラーの中に首を埋めて、恨めしく空を睨む。ニットの帽子も出してくるんだった。  睨み上げていた空は濃い灰色で、今にも何か降ってきそうだ。雨とか、やめてくれよ。この寒いのに濡れるなんて考えたくもない。祈る様な気持ちで空を見ていると、白いものが落ちてきた。  まさか、雪かよ! この寒いのに、余計に寒くなるだろ。 「最悪だ」  ボソッとそうつぶやいた途端、頭の中を雪の精の話が駆け抜ける。  そういえば、これが初雪だっけ。空から落ちてくる白いものに手を出す。信じてるわけじゃない。ただ、初雪をこんなにじっくり見ることもなかった。  空から落ちてくる雪は見事に手のひらに乗った。そして、すぐに体温で溶ける。たった一欠片の雪では手のひらを濡らすこともない。  雪の溶けた手ひらを見つめ、何を期待していたんだろうと喉の奥で笑った。 「何やってるんだろ。俺」 「修司(しゅうじ)! おはよ」  後ろからやってきた啓吾(けいご)に肩を組まれる。登校中のいつもの光景だ。  無言で啓吾の腕を肩から外す。 「はよ」 「今日寒いねー。俺、冬物出してなくってさ、朝からめっちゃ慌てたんだよ」 「そのかっこ、寒くない?」 「寒い! 修司はしっかり着込んでるじゃん。さすがだなー」 「俺も朝から引っ張り出したんだよ。もっと着てこれば良かった」 「マジ?! 一緒だ!」  朝から満面の笑みを俺に向ける。  何でそんなに笑えるんだよ。何が楽しいんだ?  ただ、寒いだけで嬉しくも何ともない朝。啓吾のことは色々理解できないけど、一番わからないのはこのハイテンションだ。  突然の寒さにぶつぶつ文句を言いながら、学校へと急ぐ。  今日もダルい一日が始まる。
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