Peter Pan & Snow White

名前の知らないクラシック音楽が流れるバーの中には、私とフィリップさん以外誰もいなかった。テーブル席には誰も座っておらず、カウンター席の奥にはバーテンダーが立っているだけで、音楽だけが流れるバーはどこか寂しく感じてしまう。

「マスター、彼女にぴったりのカクテルを一つお願いします」

カウンター席に私は座らされた。その隣にフィリップさんが座り、バーテンダーさんに注文をする。バーテンダーさんは「かしこまりました」と一言言った後、慣れた手つきでカクテルを用意していく。

「お待たせ致しました」

私の目の前にグラスが置かれる。お酒はたまに飲むことがあるけど、カクテルにどんなお酒が使われているのかはあんまりわからない。でも、月明かりのように優しいバーの明かりに照らされた黄色のカクテルは、とても綺麗でつい見惚れてしまう。

「綺麗……」

私がグラスに手を伸ばすと、「少しだけ待ってください」と横からフィリップさんに言われ、グラスを取られてしまう。

「えっ？」

突然のことに驚くと、フィリップさんは「すみません」と言いながら優しくグラスを撫でるように触れる。