足裏の妖精

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 その日は学校でも、寛ちゃんの頭の中は座敷童の事で一杯だった。  国語の時間に志賀(しが)先生が 「狐のお母さんは子狐を一人で行かせるのは心配やったんやね。人間に何されるかわからへんから。じゃぁ、子狐が人間に見つかったらどうなるかな? 」 とみんなに聞いていた。 「そんなん、すぐに捕まえられてしまうわ! 」 「殺されるんちゃう? 」 とみんなは口々に答える。  その時も寛ちゃんは上の空で、座敷童の事ばかりを考えていた。  もしかしたら先生は、その事に気づいていたのかもしれない。 「捕まえられるって、じゃぁ、人間は子狐をどうやって捕まえるのかな? 寛ちゃんどう思う? 」 と突然寛ちゃんを指名した。  寛ちゃんは"生き物"と"捕まえる"というキーワードだけをぼんやりイメージして聞き流していたから 「え?! …あ、えっと、ゴキブリホイホイ…」 と咄嗟にちんぷんかんぷんな事を口にしてしまって、先生にも呆れられてしまった。  下校の時に45(フォーティーファイブ)のアイスクリーム屋の前を通った時に上山くんから 「寛はチョコチップとチョコミントやったらどっちが好き? 」 と聞かれたのに 「きつねうどん」 と答えたので、上山くんは少しムッとしていたのだが、寛ちゃんはその事にすら気づいていなかった。  昔話では、座敷童がやって来た家はとても栄えると言っていたのだが、果たして我が家は栄えていると言えるのか? そんな事が気に掛かった。  だから家に帰ってランドセルを置き、おやつを食べる時にお母ちゃんから 「お父ちゃんが、課長さんになったんやって」 と聞かされた時には、とてつもなく驚いて、何なら背筋に冷たいものを感じた。  悪戯をする上に、家にいい事がある。  これは座敷童でまず間違いないと見ていいのではないだろうか。 ─と、言う事はだ 座敷童がいる間はお父ちゃんはどんどん出世するはずだ。  けど、昔話では、座敷童が居なくなった途端にその家はとてつもなく貧乏になってしまうのだ。  逆に言えば、こちら側は、座敷童が出て行かないように、引き留めておく必要があるという事になる。  そうなると、寛ちゃんはこれからずっと、毎日足裏とんとんに耐えなければならない。  非常に厄介な事になったとは思うが、それはお父ちゃんの為でもあり、家族みんなのこれからの為でもある。  寛ちゃんは、後継ぎとして、ここは人肌脱ごうと決意した。
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