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Ⅱ.一夜明け違和感(2023.10.12)
ミサに待ちぼうけを食らった後、待ち合わせ場所を立ち去った俺は、コンビニで酒と肴を買い込んだ。普段は食べないスナック菓子も買った。身体に悪ければ悪いだけ、良いような気がしたからだ。
酒だって嫌厭していたストロング系のものを選んだ。肴と同じだ、無駄に強ければそれで満足だった。
帰宅してそれらを抑揚なくに胃に落とし込むと、空腹と血中アルコール濃度は満たされたらしいが、胸にポッカリと空いた穴は何も埋まらなかった。気分が高揚するわけもなく、只々強い眠気に襲われた。
俺は一人虚しくフラつきながら、ネクタイを輪のまま放り、シャツを脱ぎ捨て、抜け殻のようにズボンを残してベッドへと飛び込んだ。
しかし、ハッとして使命感に身を起こす。鞄まで這うようにして移動して手帳を取り出すと、なんとか日記だけ書き認めてから力尽き、眠りに落ちた。
――これが、俺の最新の記憶だ。
そして現在、朝の七時である。
寝過ごしてしまいそうな体調の中、俺の起床に一役買ったのは意外な人物からのLINEだった。
『おはよ。良く眠れた?』
送り主は「ミサ」だった。
……良く眠れた、とはご挨拶だな。約束をすっぽかしておいて。
ああ眠れたさ。落ち込んで深酒して泥のようにな。
卑屈な笑みを浮かべながらも、心の内では安堵している自分がいた。完全に無視されたわけでも、愛想を尽かされたわけでもなく、「お灸を据えただけ」という可能性の芽が見えてきたからだ。
『眠れたよ』
何をどう伝えればいいか、分からなかった。
今まで仕事仕事で放っておいたことへの謝罪や、昨日数時間ミサを待ち続けたこと、それに何より、ミサを大切に思っていること。
色々なことが書きたくて、とてもLINEのスペースに収まりそうにないと思った結果、俺の返信は最も簡素なものになった。
そんな俺へのミサの予想外の返答に、思わず目を瞬かせた。
『良かった。徹夜明けだったのに、遅くまで一緒にいてくれてありがと』
はい?
一緒に……いなかったよな。
それに俺、別に徹夜明けでも無かったし。
いや……。
これってもしかして、浮気相手と間違って送ってきているのではないだろうか。
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