Ⅱ.一夜明け違和感(2023.10.12)

1/1
前へ
/25ページ
次へ

Ⅱ.一夜明け違和感(2023.10.12)

 ミサに待ちぼうけを食らった後、待ち合わせ場所を立ち去った俺は、コンビニで酒と肴を買い込んだ。普段は食べないスナック菓子も買った。身体に悪ければ悪いだけ、良いような気がしたからだ。  酒だって嫌厭していたストロング系のものを選んだ。肴と同じだ、無駄に強ければそれで満足だった。  帰宅してそれらを抑揚なくに胃に落とし込むと、空腹と血中アルコール濃度は満たされたらしいが、胸にポッカリと空いた穴は何も埋まらなかった。気分が高揚するわけもなく、只々強い眠気に襲われた。  俺は一人虚しくフラつきながら、ネクタイを輪のまま放り、シャツを脱ぎ捨て、抜け殻のようにズボンを残してベッドへと飛び込んだ。  しかし、ハッとして使命感に身を起こす。鞄まで這うようにして移動して手帳を取り出すと、なんとか日記だけ書き認めてから力尽き、眠りに落ちた。  ――これが、俺の最新の記憶だ。  そして現在、朝の七時である。  寝過ごしてしまいそうな体調の中、俺の起床に一役買ったのは意外な人物からのLINEだった。 『おはよ。良く眠れた?』  送り主は「ミサ」だった。  ……良く眠れた、とはご挨拶だな。約束をすっぽかしておいて。  ああ眠れたさ。落ち込んで深酒して泥のようにな。  卑屈な笑みを浮かべながらも、心の内では安堵している自分がいた。完全に無視されたわけでも、愛想を尽かされたわけでもなく、「お灸を据えただけ」という可能性の芽が見えてきたからだ。 『眠れたよ』  何をどう伝えればいいか、分からなかった。  今まで仕事仕事で放っておいたことへの謝罪や、昨日数時間ミサを待ち続けたこと、それに何より、ミサを大切に思っていること。  色々なことが書きたくて、とてもLINEのスペースに収まりそうにないと思った結果、俺の返信は最も簡素なものになった。  そんな俺へのミサの予想外の返答に、思わず目を(しばたた)かせた。 『良かった。徹夜明けだったのに、遅くまで一緒にいてくれてありがと』  はい?  一緒に……いなかったよな。  それに俺、別に徹夜明けでも無かったし。  いや……。  これってもしかして、浮気相手と間違って送ってきているのではないだろうか。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加