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3
5時間目、美術の時間。
「今日でこの課題は終わりになります。この時間に終わらなかった人は家に持ち帰って、次の授業までに持って来てください」
先生が騒がしい美術室を見渡しながら、眉をひそめて言った。
えー全然終わってないんだけど、という不満の声が教室の至るところで上がる。
「委員長、号令」
先生の声が大きく響き、場を制した。
「起立!礼」
映里がすぐさま声を張り上げ、授業は終わった。
相変わらず、映里の背筋はぴんとしていて綺麗だ。
家のことも大変なのに凄いなぁ、と映里に憧憬の眼差しを向ける。
それは美結も同じだったようだ。
私達高校一年生は入学してから、芸術科目の選択を迫られる。
絵が比較的得意な私が美術にすると言ったので、映里も美結も美術を選んだ。
美結は昔からピアノを習っていて音感があるのに、音楽を選ばずついてきてくれたのだ。
私達はいつも一緒。
ぞろぞろと、美術室から人が次々に出ていく音が響く。
「課題終わるかな?」
「えー、今週小テストいっぱいあるのにぃ、間に合う気しないんだけど」
「だよねー、でも前日にオールすれば終わるんじゃね?」
「まぁそうだなー」
誰かの声が耳に届き、絵のことを考える。
私は今日急いで仕上げて課題を終わらせたけれど、2人の紙にはまだ余白が残っていたし、明らかに終わっていなかった。
2人とも家でやるのかな。それとも。
「課題だって面倒くさい、やってくんない?得意でしょ?」
映里は先生と他の生徒が部屋からいなくなるなり、私に画用紙を突きつけた。
「あっうんいいよー、もちろん!」
私はすぐさまそう返す。
嬉しそうな映里の隣で、美結は心底羨ましそうな顔をしている。
「美結のもやってこようか?」
「えっいいの、まじありがと!助かるー。本当明依は頼れるわー」
「ありがと。じゃあ預かっとくね、これ」
断るなんて選択肢は最初からない、だって私たちは友達なんだもの。
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