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「ねぇ映里、昨日のライブ最高だったよね!」
1時間目が終わった瞬間、美結が映里の席に飛んできて叫んだ。
「超面白かった、やばすぎじゃない?」
「まじそれな!」
昨日、私たちが推しているグループのライブ配信があったのだ。
3人で通話しながら見ていたけれど、まだ昨日の夜の興奮が残っていて脳が熱い。
「あれ、アーカイブ出たら永遠に見れるよね!」
「それなー!」
「あの、北原さん」
ふと、林さんが映里を呼んでいるのに気付く。
何かのプリントを持って立っていた。
「もう少しで推しの誕生日なんまじ楽しみぃ」
目を一瞬向けたけれど気にも留めず、話し続ける映里。
「あの」
林さんは目をゆっくり瞑り、心を落ち着かせているように見えた。
私達が話してるっていうのに、割り込もうとしてるのか、この人は。
舌を鳴らそうとした矢先、林さんが口を開いた。
「あの、北原さん。えっと、昨日の委員会の。北原さん来てなかったから…」
俯いて小刻みに震えた林さんに向かって、すぐに映里は冷たい目を向ける。
私も同じように林さんを見下ろす。
あぁ、背が高い方でよかった。
薄ら笑いを浮かべながら考える。
昨日は18時から家でずっと画面を見てたんだから、映里が17時半からの委員会に出席しなかったのは当たり前じゃない。
確か、映里は前に「保健委員会の先生は優しいから、早く帰らなくてはいけない用事があると言ったらすぐ帰してくれる」と嬉しそうに言っていた。
私も映里と同じ保健委員になればよかったなぁ。
ガサッ。擦れて皮膚が切れ、血が出ても可笑しくないくらいの勢いでプリントを奪い取る映里。
ゴミを見るような目で、林さんを見ていた。
それでいい、カースト下位層の奴らと話してる暇なんてこれっぽっちもない。
教室というこの場所では、線を引かれた、その区域でしか動いてはいけないのだ。
一軍の私達が、普段滅多に口を開かないような価値のない連中と接すなんてこと、あってはならない。
映里になんて言われるか分からないし、何よりもプライドが許さない。
これはそう、生き残るための術。
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