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俺は電池の切れた腕時計を手に時計屋を探していた。
ふらふらと街中を歩いていると、今やシャッター通りと化したかつての商店街に小さな時計屋を見付けた。
昭和の雰囲気を醸し出す店構えに懐かしさが過ぎる。
俺が生まれた町にも小さな時計屋があった。
高校入学祝いに、親父がその店で腕時計を買ってくれた。
そんな事を思い出しながら、店の中に入って行った。
「いらっしゃい」
奥から店主の声がする。
店内を見回しながら奥に行くと、片目にルーペを付け如何にも時計職人と見える年配の店主が作業していた。
「腕時計の電池交換出来ますか?」
俺が尋ねると店主はルーペを外し作業を止めた。
「見せてごらん」
店主に言われるままに腕時計を出した。
「ちょっと待ってな」
店主は腕時計を受け取ると、またルーペを付け作業を始めた。
「だいぶ使ってなかったね
電池が液漏れしてるよ」
「今は携帯が時計代わりだから、使ってなかったんですよ」
「…最近はみんなそうだね」
店主は寂しそうに言った。
「でも、なかなか良い時計だね
掃除してオイルも注しといたから…」
そう言いながら店主は俺に腕時計を渡した。
料金を払い店を出ようとした時、「大事に使えよ」と今は亡き親父の声が聞こえた気がした。
end
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