39 メラニーとの抱擁

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39 メラニーとの抱擁

 エレンと話し終えるとすぐに私はメラニーを呼んだ。戦いに行く前に、メラニーにだけは本当のことを言っておこうと思ったのだ。 「あら、エドガー様はいつの間にお帰りになったんですか?」  手がつけられていないティーセットを見て、メラニーは不思議そうに言った。 「メラニー、落ち着いて聞いてね。実は――」 ☆☆☆ 「では、そのディザストロを倒さなければこの国の未来はないのですね」  神妙な面持ちで聞くメラニーに、私も真剣な顔で頷く。 「そうなの。今日の王宮の惨劇はすぐに皆が知ることになるわ。幸い、お父様とお兄様は文官で二階が職場だったから無事だったけれど、次にあいつらがどこに現れるかは誰にもわからないの」 「どこに逃げようが危険は変わらない、と」 「ええ」  メラニーはしばらく考えていた。そして、いつもの明るい笑顔になるとこう言った。 「大好きなアイリス様の前世が、大好きなアデリン様だったなんて、倍の嬉しさです。私はずっとアイリス様付きのメイドですからね。このお屋敷で、ドンと構えてアイリス様を待ってます。だから、どうかご無事で……エドガー様を連れて二人一緒に帰って来て下さいね」  ほんの少し、目尻に涙が光っている。私がそっと抱き締めると、メラニーもギュッと抱き返してくれた。 「留守中のことはお任せ下さい。上手く誤魔化しますので」 「助かるわ。それが心配だったの。じゃあ明日の朝早くに出るから……あとはお願いね」  翌朝、私が出発しようとしているとメラニーが部屋に入ってきた。 「お見送りぐらいはさせてくださいませ」 「ありがとう、メラニー……」  私は再び彼女を抱きしめると、身を隠す魔法で姿を消した。  目を丸くして驚いているメラニーの耳元で「行ってきます」と囁いてから、窓を開けて飛び立つ。きっと、ここへ戻ってくると誓いながら。  そのまま北へ向かって飛んでいると、肩に止まっていたヒューイが話し掛けてきた。 「アイリス、長老から返事が来た」 「長老は、何て言ってるの?」 「あの男の結界からは奴の気配が少し感じられたそうだ。ただ、妖精族に伝わるディザストロとは、巨大で本能のままに暴れ回る動物のようなものらしいんだ。あんな風に人の言葉を話す知能があるとは思えないと」 「あいつはドラーゴを『差し向ける』と言っていたわ。ドラーゴより上位ということよね。ということは、やはりあいつはディザストロ……」  災厄と呼ばれるほどの巨大な()()が、知能を持って世界を攻撃したら……どんなことになるのだろうか。王宮でも、王の部屋を確実に狙って攻撃している。王を消せば国の機能が停止することを知っているとしか思えない。 「進化しているのは人間だけじゃないってことね」  とにかくエドガーとディザストロの手がかりを何かしら見つけなければならない。私はスピードを上げて北の大地へ向かった。
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