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43 再会の喜び
「エドガー? 気がついたの?」
ゆっくりと目を開けたエドガーは、フッ、と笑って呟いた。
「もう死んだのかな……ここにアイリスがいるなんて……」
「エドガー!」
私は空に浮かんだまま、エドガーをさらに強く抱き締めた。
「生きてるわ、エドガー! あなたは生きてるの。私が助けに来たのよ……!」
さっきまでぐったりと抱かれていたエドガーは私の背中にまだ力の入らない腕を回し、そっと抱き締めてきた。そして顔を上げて私の顔を覗き込むと、目尻を下げてはにかんだ、照れ臭そうな笑顔を見せた。――初めて会った時と同じ、私が好きになった愛らしい笑顔を。
「アイリス、ごめんね、泣かないで……」
そう言われて初めて、私は自分が涙を流していることに気がついた。
「だって、エドガー、あなたがもう目を覚まさないんじゃないかと心配で……」
エドガーはそっと私の涙を指で拭い、私の顔に頬擦りした。彼の黒髪が私の鼻先に触れる。美しい青い瞳はディザストロの冷たさと違って優しさと愛情に溢れていた。
「アイリス、会いたかった」
「エドガー、私もよ。あなたが生きていてくれて本当に良かった……」
空の上でしばらくの間私たちは抱き合っていた。といっても、そんなに長い時間ではなかったと思うのだけど、ヒューイが移動を促してきた。
「また攻撃してくるかもしれない。もう少し距離を取ろう!」
するとエドガーが言った。
「アイリス、アイツはしばらく移動はできない。まだ、完全に目覚めてはいないんだ。無理して炎を吹いたから、今は動けなくなっているはずだ」
「わかったわ。その間に次の策を考えましょう」
私はエドガーを抱いたまま辺境師団の演習場の端へ向かい、そっと地面に降り立った。
「エドガー、いろいろと話さないといけないことがあるの。でもその前に、あなたの身体を回復させるわ」
私はエドガーの手を取り、癒しの力を流し込んだ。三日も岩の中に閉じ込められていたのだから、かなり衰弱している。
「温かい……」
エドガーは目を閉じて白い光に身を任せていた。青ざめた頬はほんのりと色付き、生気が戻ってきたようだ。
「どう? エドガー。気分は良くなった?」
「ああ、アイリス。とても楽になったよ……君は、聖女だったんだね?」
私は口を一文字に結び、頷いた。
「黙っていてごめんなさい。私、どうしてもあなたと結婚したくて……聖女だと公表したら結婚できなくなってしまうから、家族にも誰にも言わなかったの」
「私と結婚するために黙っていたの?」
もう一度頷く私。
「アイリス、一人でそんな秘密を抱えているのは辛かったよね。私がもっと頼れる男だったら、君の悩みに気付いてあげられただろう。済まない」
こんな時にも、エドガーは他人を思いやるのだ。私は、自分のために、自分が結婚したいがために黙っていただけなのに。私なんかより、エドガーのほうがよっぽど聖人だ。
「ううん、私は悩んでなんかいなかった。ただただ、あなたと結婚することばかり考えてた。だけど今は、大きな危機に直面していて……それが解決するまでは結婚できない……いえ、しないと決めたの。それでも、許してくれる?」
もし、断られたらどうしよう。そんな女と結婚したくない、婚約解消だなんて言われたら……。
「終わったらすぐに結婚できるんだよね?」
エドガーは悪戯っぽく笑って、俯く私の目を覗き込んだ。
「私は、アイリスだから結婚したいんだ。私が結婚するのはアイリスだけだってもうとっくに決めている。だから、さっさとアイツをやっつけて予定通り式を挙げよう」
「エドガー……」
ウルウルして見上げる私の頭をそっと撫でて。
「さ、アイリス。詳しく話してくれるね?」
「エドガー……」
優しくて、さらに頼もしくなったエドガー。やっぱり私はエドガーが大好き。
それから私は今までのことを全て話した。前世のこと、アンドリューのこと、キャスリンや妖精たちのこと。そして王宮がドラーゴに襲撃されたことを。
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