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46 ディザストロの最期
ドラーゴはこれで全て仕留めた。ディザストロはいつ動き出すのだろうか。目を凝らして見ていると、遠くでチカっと赤い光が瞬いた。
「来るわ!」
「防御!」
私とエレンは協力して防御したが、ものすごい速さでこちらに向かってきた巨大な炎は防壁にぶつかって四方へ飛び散り、炎の壁となった。
「このままじゃ近付けないわ。なんとかしなければ」
「水!」
エレンが腕を伸ばし手のひらから大量の水を噴出し始めた。
「エレン!」
エレンの水が炎を押しとどめる。私はエレンの――いや、キャスリンの小さな背中を後ろから抱いた。そしてありったけの力を同調させた。
「「水!!」」
大河のようなうねりが炎と拮抗し、ぶつかり合ったところは凄まじい蒸気が立ち上っている。やがて炎がゆっくりと後退して行き、やがてスッと消えた。炎を吐き切ったのだろう。
「次の攻撃が来る前に進むぞ!」
エドガーは私を、アンドリューはエレンをしっかりと掴み、私たちは空へ飛び上がった。ディザストロのいる辺りは草が燃えている。暗闇に浮かび上がる赤い円環。そこを目指して上空から近付いて行った。
「本当に大きいな……」
アンドリューが呆れたような声で言う。
「あれが国中を移動したら、後には何も残らない」
「ええ。だから今、倒しましょう」
私とエレンは目を閉じ手を繋いで二人の力を合わせる。
(アイリスお姉様……)
その時私の心の中に呼びかける声があった。
(キャスリン?! あなたなの?)
(お姉様、エレン、戦ってくれてありがとう。私も頑張る。ここで祈りを捧げるわ)
(ありがとう、キャスリン。みんなで一緒に戦いましょう)
エレンと私は目を合わせて頷いた。
「「雷!!」」
二人が空から呼び出した雷光を捻り合わせて頑丈な一本の鎖にし、ディザストロの口にしっかりと巻きつけて炎を吐けないようにする。それから手足にも巻き、動きを封じた。ディザストロは地鳴りのような音を出しながらもがいていた。
「今よ!」
「言われなくとも!」
アンドリューとエドガーは私たちを掴んでいた手を離し、ディザストロの頭に向かって飛び降りた。そして私たちの聖なる力を込めた剣を、体重をかけて――深く深く、眉間に差し込んだ。
グオォォォ…………恐ろしい声が響き、風が吹き荒れた。ディザストロの身体が岩となってガラガラと崩れていき、足場を失ったアンドリューとエドガーは剣を持ったまま落ちて行く。
「大変!」
私とエレンは急いで二人の所に飛び、私はエドガーを、エレンはアンドリューの身体を支えた。
「やったの? 私たち、ディザストロを倒したのね⁉︎」
崩れ落ちた岩石の山となったディザストロの身体が、さらに細かくなりサラサラと風に乗って消えて行く。その風が止んで、焼け焦げた地面に降り立つと喜びが込み上げてきた。あの大きな敵を倒すことができたのだ!
空はいつの間にか明るくなり始めている。私はエレンと抱き合い、勝利を祝った。エレンの中でキャスリンも喜んでいるし、ヒューイたち妖精も飛び回っている。
「ロイもヒューイも本当にありがとう! あなたたちのおかげよ」
「いや、君たち人間の力がないと奴を倒すことはできなかったよ。ありがとう!」
すると珍しく満面の笑顔を浮かべたアンドリューが、話に入ってきた。
「妖精たちがそこにいるのか? 私には見えないけれど、礼を言う。君たちの魔法があったからこそディザストロを倒すことができたのだ」
(……そうね、アンドリューには妖精たちが見えないんだもの。見えるのは私とキャスリンだけ……)
私はさっき感じた違和感を再び思い出した。
あの時エドガーはヒューイの言葉を聞き取っていたし、妖精の存在を不思議とも言わず当たり前のように振る舞っていた。もしかして、妖精が見えているのでは……? 何か黒いものが胸の中に広がるのを感じた。
そっと後ろを振り向いてエドガーを見る。エドガーはいつもの優しい微笑みを浮かべてくれた。でもその目は――
「なんだ、気がついちゃったのか」
エドガーの冷たい声に全員が振り向いた。
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