49 あれから

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49 あれから

 あれから三ヶ月が過ぎた。  ロラン王国は新王となったアンドリューが指揮を執り、復興と改革を進めていた。  焼け焦げた王宮は取り壊して建て直し中だ。その間は別棟の迎賓館を仮の王宮としている。  主だった大臣の半数はドラーゴによって命を落としたため、新たに選ばなければならなかった。アンドリューはその際に不必要なポストは無くし、組織のスリム化を図った。  もし彼が普通の第二王子だったら、権力の座を狙う老練な貴族達に丸め込まれ、利用されていただろう。  しかし彼には前世での四十五年の経験がある。それゆえに人を見抜く目を持っていた。  だから信頼できる、自分を支えてくれるであろう臣下たちで周りを固め、また派閥のバランスにも気を配り短期間でしっかりとした体制を作り上げた。  中庭にある聖女の神殿は取り壊すことになった。  魔獣の親が滅びた今、聖女を閉じ込める意味は無い。癒しの能力があるのなら、その力は民衆の中にいてこそ価値があるとアンドリューは考えた。  聖女ステラは長年の貢献を認められ、報奨金と土地、家を与えられて王宮を出た。そして今は、騎士団を辞めたテオドアと共に畑を耕しながらゆったりと暮らしている。本当に良かった。残りの人生を愛する人と幸せに暮らして欲しい。  キャスリンは、王太女となって特別な教育を受けることになった。しかしまだ父母と兄を亡くした心の傷が完全に癒えてはいない。そのためアンドリューのはからいで週に一度だけ私が参上し、息抜きの時間を設けている。 「アイリスお姉様、私ね、スージィやメルル、エレンがずっと心の中に一緒にいて励ましてくれたから、もうお父様たちのことは大丈夫なの」 「本当ですか? キャスリン様」 「うん。お父様たちはきっと私のことをお空から見て下さってるって。だから私は、いつ見られても恥ずかしくないように、ちゃんと私の役割を果たそうと思うの。そしてアンドリューお兄様の力になりたいの」 「キャスリン様、素晴らしい考えですわ」  思わず目頭が熱くなってしまった。あまり愛情をかけてもらえなかったにも関わらず、父母や兄のことを大切に考えているキャスリン。辛いことがあった分、十歳とは思えぬ落ち着きを身につけた。王族らしい自覚や分別と共に。 「それにね、私のために身体を捨ててくれたエレンたちのためにも、私はちゃんと生きていかなくてはいけないわ」  そう、エレンたちはキャスリンの心に寄り添ってしっかりと慰め、支え、励ましてくれた。そしてつい先日三人は別れを告げ、消えていったのだという。 「きっとまた妖精として生まれてくるって言ってたわ。だからまた会える。そう思っているの」 「そうですね。きっと会えますよ」  そっとそばに寄って小さな肩を抱くと、キャスリンは私を見上げてにこっと微笑んだ。  キャスリンの部屋を辞した後、私は騎士団本部に向かった。エドガーは、ディザストロを倒した功績を認められて本部入りを任ぜられていた。これは将来的に騎士団長も夢ではないと、ラルクール侯爵も私の父も喜んでいる。  騎士団本部横の練兵場ではまだ騎士たちが訓練をしていた。騎士団の精鋭である彼らは全ての騎士団員の憧れ。その中に、エドガーも名を連ねたのである。 (訓練に汗を流すエドガーも素敵だわ)  私は初夏の日差しで日焼けしてしまわないよう日傘をさし、訓練が終わるのを待った。キャスリンと過ごした後は、いつもエドガーと一緒に帰ることになっているからだ。  当初の予定通り来月には結婚する私たち。半年間は前国王の喪に服する必要があるため、式は身内だけで簡素に行うことになった。父には挙式を先延ばしにすればいい、せっかくだから豪華な式を挙げて大勢に祝福されたいだろうと言われた。    でも私は一刻も早くエドガーと結婚したかったのだ。 (ついに、私の願いが叶うのね……)  剣の手合わせをしているエドガーの額が汗で輝いている。その姿をうっとりと見つめている私に、背後から声が掛けられた。 「しばらくだな、アイリス」  振り向くと、視察帰りなのか、部下を三人ほど引き連れたアンドリューが立っていた。
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