2.”反魂”の書と出会う。

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2.”反魂”の書と出会う。

 訳も分からないといった様子の豊ではあるが、そんなの普通の人間であれば誰しもそう感じるであろう。病院へ行こうとすれば何かが焼かれていて、その本を消火したら話し掛けられ、導かれるままに付いてきてしまったら変な格好をした人間達が居て…情報過多で頭がおかしくなりそうだ。そんな豊に眼鏡を掛けたシルクハットを被った男性…ルークは呆然としている豊の腕を引っ張り上げて無理やり、ある場所へと連れて行こうとする。 「さあさあ! これぐらいで驚かないでよ~壺中の天の人間さん? …というか言いにくいから名前教えてくんない? 僕達は君を殺そうとも食べようともしてないんだからさ~…ねっ?」  妙に気迫のある言葉ではあるがさすがに自分自身でもその”壺中の天の人間”というのには長ったらしさを感じたので、豊は馴れ馴れしく腕を掴まれている手を離させてからルークと周囲の人間に自己紹介をする。 「えっと…。志郎 豊です。よろしくお願いします」  恭しく礼をする豊ではあるがルークは何かを思いついたようで笑みを零して言い放つ。…それは”焚書士”とはどういう仕事なのかを想起させるものであった。 「うんうん。志郎君ね~。まさに焚書にはぴったりじゃない? 『文書を知ろう(志郎)とする人間を焼く』…焚書士としてはなかなかジョークが入ってさ」  ルークの言葉に豊は先ほどの困惑から離れたように、今度は彼に対して嫌な印象を受ける。…というよりも”焚書士”というのがそんな物騒な存在であることにも衝撃的ではあるし…そんな職業などやりたくもない。 「……あなた、俺に喧嘩でも売ってるんですか? 焚書というのはまだよく分かりませんが、人間を焼く仕事なら他を当たって下さい。…俺は人殺しなんてしませんから」  軽蔑するような視線を送る豊にルークはつまらなそうな表情を見せる。 「ふぅ~ん?君、冗談が通じないんだね~。…まぁいいや。勘違いしないで欲しいけど、焼かないから」 「……。そうですか。…では一体何を?」 「”意志”を持った…悪い”書物”を焼くんだよ? だから言ったでしょ? 『文書を知ろう(志郎)とする人間を焼く』…まぁ人間に害を成す”書物”を焼くんだよ」 「…やっぱり焼くんじゃないですか。…それでは結局―」 「あ~。もう、うるさいな~?…冗談が通じないのは僕の嫌いな人間の1人なんだけど?」 「……。」  さすがの豊でもルークの言葉に反感を覚えるが彼は謝罪もせずに口笛を吹いて歩を進めていく。そんな豊ではあるが先ほどのルークの嫌味に反応をした女性が彼に向けて軽く謝罪をした。淡いピンクローズの長い髪をした女性は自身をアスカ・(きょう)・ミスリアと名乗った。 「ルークさんがあなたに無礼を働いたこと、申し訳ありません。…ルークさん。なかなか壺中の天の人間が現れないものだからイラついていて…。本当にすみません」 「そんなのアスカが謝る方がおかしいわよ。…豊君って言ったかしら?」 「えっと…君は?」  申し訳なさそうにするアスカとは打って変わり銀髪で巻き髪をしたツインテールの少女が突如として豊に話し掛けてきた。その少女はケラケラと笑っている。そして突っ立っている緑髪にバンダナ付けた青年も交えて自己紹介をするのだ。 「私はレジーナ。…通称は”拘泥(こうでい)”の書。よろしくね~」 「…サラ。”暴露”の書だ。よろしくな人間」  …”拘泥”に”暴露”? …それに、”しょ”ってどういうこと?  頭の中で”しょ”を検索し出てきたのは”書”くの方であった。だがそれでも謎は尽きない。…この2人は、一体? 「…拘泥と暴露…の書? …君達は一体??」 「そんなことよりも!! 早く行かないとルークが行っちゃうんだからついて行くわよ!」 「????」  レジーナの言葉に豊は疑問に思いながら先導するルークに渋々ついて行くのであった。  先導をするルークが大きな扉を開ければそこには幾人かの人間がそこに居た。しかしそんなことよりも豊が気になったのは…場所が本に囲まれた世界であったことだ。 「す…ごい。本がめちゃくちゃある…。図書館でもこんなに無いのに…?」  驚いて辺りを見渡せば複数の人間がルークやアスカに敬礼と言葉を発したのだ。豊はそれに再度驚きを見せる。 「ルーク司書官、それにアスカ書簡(しょかん)! お疲れ様です!!」 「「「お疲れ様です!!!」」」 「な…なんだ?」  突然の挨拶ではあるが聞き慣れている様子のルークは豊を前に出して紹介をする。 「みんなご苦労! …ついに我が焚書士に新しい仲間が出来た! …名前は志郎 豊。…壺中の天から来た人間だ!」 「壺中の天!?? やっと来たんですね! 良かった…」  明るい声音に豊は先ほどの気持ちとは打って変わり歓迎されたような気がして嬉しくなってしまう。…ただ今度は次の焚書士がルークにこのような質問をするのだ。 「ルーク司書官! …そしたら相棒(パートナー)は誰と?」  するとルークはまた笑って言い放つ。しかしそれは場が凍り付くものであった。 「志郎君の相棒(パートナー)”反魂(はんごん)の書”。…リィナだ」  彼の言葉に周囲は沈み込んでしまう。“反魂”というのにも興味を抱く豊ではあるが…それよりも気になる言葉が出てくるのだ。 「……えっ? あの疫病神?」 「あんな”書物”を? …使いこなせるのかしら?」 「司書官。無理があるんじゃ…?」 “反魂”の書という存在に対し、口々に野次を飛ばす焚書士達を見て豊は少し苛立ちを覚える。迎えられたかと思えば出来ないというレッテルを貼られそうになり、そして”反魂”の書であるリィナという人物を”疫病神”だと罵る様には激しい憤りを感じるた。名前からして女の子のだと思うのだが……他人だろうが人を尊重しない人間を豊はあまり良く思えない。  顔にも行動にも出てしまい、豊がムカついて帰ろうとするのをルークは引き留めては皆に伝えるのだ。 「まぁまぁ。みんなもそんな風に言わないでよ~? …彼も怒っているようだし…さっ。志郎君。君の相棒(パートナー)になるお姫様を紹介しよう。…アスカ? 扉を」 「あっ、はい!! 今、します」  …?  豊が疑問に思えばアスカは自身の腕時計と天井にある古時計を照らし合わせた。するとなんということか。…轟音を立てて本棚からエレベーターが現れたのだ。驚く豊を連れてルークとリィナはエレベーターへ乗り込む。そしてアスカとサラはその場に残った。  エレベーターへと乗り込んで地下へと入る3人ではあるが少しホコリ臭い。鼻を抑えながら進む豊は先導するルークに問い掛ける。 「あの…本当にどこに連れて行くんですか?ホコリ臭いし、電灯だって薄暗いし…。ここって…何ですか、一体?」  するとルークは何とか付いてきている豊に少し微笑んだ。だがこの状況で笑みを見せられても困るので豊はもう一度尋ねれば、彼は先ほどの笑みと同じくらい呑気ではあるが衝撃的な言葉を口にする。 「だってここ、だもん。しかも厳重にされてるし?」  ルークの発言に豊は再び唖然とするが、今度は疑問も抱いた。 「…牢屋? なんでそこに案内されなきゃ…もしかして、俺が帰ろうとしたから―」  しかし彼はやんわりと訂正する。 「違うよ~?…君の相棒(パートナー)の紹介の為さ」 「…ぱーとなー?」  再度疑問を浮かべれば、ルークはある一室へと立ち止まり解除キーを入力してから入室をする。訳の分からぬまま豊も入室をすれば…鎖に繋がれた傷だらけの少女が座り込んでいた。電灯が薄暗くてあまり判断はできぬがホワイトローズのミディアムの髪に(アメジスト)の瞳はルークと豊に向けて苛立ちの炎を宿らせる。そんな彼女に溜息を吐いてからルークは衝撃で唖然としている豊に彼女の紹介をするのだ。…だが、豊にとってそれは”運命の出会い”というにはあまりにも冷たかっただろうに。 「この子がリィナ。…通称、”反魂”の書だよ。リィナ。この人が、君の相棒(パートナー)になる人間、志郎 豊君だ」  すると彼女の瞳は憎悪に塗れたような苛立つ炎を宿し…そして言い放った。 「…シロウ ユタカ。……お前も大嫌いだ」  彼女の怒りを感じる言葉に豊は疑問と共にぞっとさせた。
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