第1章 お化け屋敷

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第1章 お化け屋敷

学校は終業式で今頃みんなは校長先生の話を聞いている。 「やばい終わるかもしれん!!!」 叫び声を上げても何も起こらない。 誰も何も気づかない。学園講堂の窓を通り越したのに、影も映らない。 左サイドでひとつに束た髪が、視界を阻む。 そんな事に構わずおれの体は地面に近づいていく。 地面に当たる、と思い、地面に背を向け目を瞑った。 けど。 「は?」 来るはずの痛みが来ない。 っていうか、地面の草の感触すらない。 やっぱりか…頭の片隅で思う。 「ウソォォォッッッ!!?」 「しししししっ、死ん!死んでないよねッ!?!?」 悲鳴と、すごく裏返った声が聞こえた方に視線だけを動かす。 「ああああ、葵ちゃん!?」 「自殺しようとしてたの!?」 焦った表情で、覗いてくるのはおれの親友の2人。 いやいや、理解するよりも、問題がある。 「いや、まずまず、生きてるよね?屋上から飛び降りて無傷とか有り得る?」 おれは、寝転がったままあきれた声を出す。 …うん、ありえないよね。 正直言ってすっごく怖かった。死ぬ覚悟はあったけども。 「無事でよかったけどさ…ここで待っててって言われて待ってたら、上からなんか降ってくるし声も出んかったわ」 おれの無事を確認して息をついた地柴南那ちゃん。 「なんでこんな…自殺に似たことしたの?っていうかなんで生きてんの?」 質問攻めにしてくる水鳥真羽ちゃん。心配してくれてるのが声で分かる。 …と、それより。質問に答えないとね。 おれは体を起こして、ニッと不敵に笑って…状況説明する。 「今日さ、映画のストーリーみたいじゃない?なんかこう…学校着いたら幽霊でした、みたいな?」 「「あー」」 「無傷だし無視されるし髪の先は透けてるし物にも触れないし足音しないし…ね?」 「「うーん」」 「だから、幽霊かなって」 「「は?」」 「幽霊なら屋上から飛び降りても死ぬことないでしょ?」 「「なんで危ないことしたのッ!」」 「えー、それしか思いつかなかったし…それに、おれは制服ズボンにネクタイだから下着見えないっしょ?」 「「そういう問題かッ!」」 全く同じ言葉で詰め寄ってくる2人に身を引く。仲良しさんだこと。 ギャーギャー言い合っていたら、真後ろから声が聞こえた。 「えぇ!?もう自覚し始めてます!すごい!」 「教えられたデータにないことですよ、自分からなんて!」 「うわー!これはこれは。カンが鋭そうですねぇ!」 一瞬固まったおれ達。我に帰り、揃って振り返る。 「「「はぁ?」」」 真後ろにいたのは、両手に乗るほどのペンギンと犬と狐だった。 「何コイツ」 それもだけど、この声ニュースのインタビューで使われる加工された声(つまり機械音声)じゃん。 声どっから聞こえた?ていうかなんでペンギンが陸に?そもそもなんで狐がいてんの。野生じゃなかったっけ?いや狐はありえるな、ここ林の入口だし。ってか狐と犬って四つん這いだよね?二足で立ってるんだが。しかも3匹ともチビやな。いや普通に怖!? おれの頭の中は一瞬にしてハテナで埋まってしまった。 そんなおれに構わず、眉間に皺を寄せて真羽ちゃんが一言。 「コイツら喋るはずないやんね」 …た、確かに…。おれは心の中で同意する。 「どこから脱走したんだろうね、犬は別としてペンギンと狐って。」 キョトン、とする南那ちゃん。 脱走?それはなくね? 南那ちゃんの考えはいつもおれからちょっと遠い。 「「「アホかおまえら」」」 そのチビ動物が喋った。…ように聞こえた。 だって!コイツらが半目になるのと声がジャストだったよ!? 「「「ひっ、しゃっ!しゃべったぁぁぁぁぁ!!!」 思わず絶叫をあげる。ピッタリなのがまた怖い。 「うるっさいですね」 「ちょっと名乗ってもらえますか?誰ですか」 「こいつらホントに黒霊にやられた人ですか?」 「「「アホっぽいんですけど」」」 サラリと、丁寧な言葉遣いで毒を吐く、チビ動物。 どこかで聞いたことのある煽りかたに、おれの中で何かがプツンと切れた。 「は?なんだとお前ら、お前らの方がチビで短足でアホっぽいんですけど人のこと言えませんよどこのどいつですか」 おれの気迫にゾッとする真羽ちゃんと南那ちゃんが視界に入るけど、怒りの方が断然強い。 「ていうかなんで喋ってんですかこのチビ動物が。さっさと名乗れやクソガキめ」 殴るぞっていう勢いをつけて迫る。 「まっ、待って待って怖い怖いちょっと待って!」 慌てて止める真羽ちゃんに、おれは我に帰って、はいすいません、と謝る。 すると、動物達は後ろを向いてヒソヒソと話し始めた。 「前髪特徴的な子は真っ直ぐですね。」 「あのズボン履いてる子は過去がすごくドス黒いですね」 「胸まである髪の子は2人の助けをする弓の方ですかね。」 「前髪特徴は剣ですね。すぐいけそう」 「ズボンは多分剣もいけるけど、銃のほうがいいかもですね」 「ズボンはどちらも持っといて、現場で決めてもらった方がいいかもです」 何を話してるのか訳がわからなくなったので、おれは思わず声をかける。 「聞こえてんで。意味わからんけど全部バレバレ」 それに続いて2人が動物に詰め寄った。 「とりあえずそのあだ名やめて」 「詳しく説明してくれへん、最初から」 一瞬固まった動物たちだが、くるりと回って3人の目の前に戻る。 おれは、最初の疑問を投げかけた。 「っていうかさ、なんで口動いてないのに喋れんの?」 ぽっかーんとした使い魔達。 チビ狐が、考える仕草をした。 「普通、動物霊だし人の言葉喋れないんですけど、普通の幽霊とは違うので話したいって思った事全部言葉になる的な」 それを聞いて真羽ちゃんと南那ちゃん。 「あーっ。だから毒舌やったんね。」 「幽霊だったんだー」 あんまりおどろかないんですね、と拗ねたふりをしたチビペンギン。 「順番に名乗らせていただきます」 一歩下がったチビペンギン。逆に一歩出るチビ狐。 「名前は響奏と言います。狐空葵さんの使い魔という存在です」 小さな狐は、響奏というらしい。 っていうか。 「おれの使い魔?って…はぁ?どういう事?」 現実についていけないおれをスルーして、自己紹介は進む。 「名前は澄豆。地柴南那さんの使い魔です。」 小さな犬は澄豆。 「もう意味がわかんないって!」 頭が追いついてない南那ちゃん。分かるよ。 「名前はモンブラン。日本離れした名前ですが。水鳥真羽さんの使い魔です。」 ペンギンはモンブラン。 「美味しいよなぁ、モンブラン。いやこっちはわからへんけど」 ほっこりした顔つきから、真顔にもどってわかんないと真羽ちゃん。 …美味しいのは今関係なくね?顔の変化がコロコロ変わるのも真羽ちゃんらしいけど。 「ところで…」 思い出したように響奏。 意図を汲み取った使い魔達が、 「「「あんたら誰ですか」」」 声をそろえた。 「な、なんかどんどん口悪くなってる気がする…」 南那ちゃんの引き気味の声に続く。 「使い魔っていうより部下をこき使う上司って感じ…」 上下に振っていた頭を止めてジト目で真羽ちゃん。 「ていうかさっき私らの名前、知ってたよな…」 真羽ちゃんの指摘に小さくため息をついた使い魔達。 「はいはい、知ってます。もういいです」 「本部へ連れて行きますので」 「さっさと着いてきてください。幽霊さん」 投げやりな言い方で意味がわからないことを並べる使い魔達。 「ゆ…」 「幽霊…」 固まる南那ちゃんと真羽ちゃんとは別に、おれは、やっぱりか、と思う。 知っていたよね、分かってたよね、心のどこかで誰かが言う。 そんなおれの心を読み取れる人もいなくて。 ばっ、と振り向いた使い魔達が哀れむように口を開いた。 「透けてて自殺できないとなると幽霊ぐらい思いつくでしょ」 「ほんとーに、」 「アホですね…」 はぁぁぁぁ、とため息をつきながらいう使い魔達は、ほら早く立って立って、と急かす。 「アホでもバカでも思いついてたわそれぐらい。それに自殺しようとしたんじゃなくてお化けなのか確かめてみただけやし」 使い魔達に文句をつけたおれは、渋々着いていく事にした。 南那ちゃんと真羽ちゃんも我に帰って立ってくれた。 「おっ、たちましたね偉い偉い」 澄豆が完全に見下した口調で手を叩く。 機械音声だから読み取りにくいけどさ、 「バカにすんな腹立つ」 空気が悪い事に気づいて、響奏が口を挟んできた。 「今女の子の幽霊ですけど、後でちょっと工夫をすると…」 意図を汲み取って、モンブランが繋ぐ。 「男の子の人間になって第二人格で黒霊消師になってるかもしれないですね…」 話を聞いていたおれは固まる。 後ろからついてきていた南那ちゃんと真羽ちゃんも、同じように。 「「「はぁ?」」」 気配が止まったので振り返った使い魔達が声をかけてくる。 「どうしました?」 「具合なんて悪くならないですよね」 「早く進みますよ」 いや問題はそこじゃないのよ、と真羽ちゃん。 その通りだよ。 「なんで性別変わんのよ」 頭が痛いと言わんばかりにこめかみを抑えて声を出す南那ちゃん。 「色々わからなすぎてついていけない」 頷きながら同意する。 「女が男になるにはまず、わあっ」 言いかけたところで南那ちゃんから手刀が飛んできたので、のけぞって避ける。 うわぁ人間てバクるんですよねこうやってすぐ、とモンブランが顔を歪める。 「また口が一段と悪い…」 怖い怖い、とおおさげに震える真羽ちゃん。 本当に怖い。色んなことが。 はぁぁぁぁ、と今日一番の長いため息を吐くと、響奏は言った。 「うるさすぎて我慢できないのでちょっとの間封印しますね」 最後に、ニコ、と笑ったことが怖くて、反論できない。 え、封印て…あの,あれだよね?簡単に出れないやつだよね?大丈夫じゃないよね? 「反論がないので封印しまーす」 「澄豆ー、あの瓶出してー」 「はーい。これですねー。」 どこか楽しげな使い魔達にポカンとし、一切動かない南那ちゃんと真羽ちゃんを視界の端に捉える。 「それじゃぁ、行きまーす」 「「「え?」」」 澄豆の声と同時に、おれ達の姿は「パンっ」とはじけた。
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