第一話『王子様』

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 教室でサッと答えて帰るつもりだったのだが、まあそう言うなら仕方ないと元音(もとね)は筆記用具を詰め込んだ鞄を肩に掛け椅子を机の中に入れる。  すると久土和(くどわ)も机の上から降り始め、そのままリュックを背負ってから二人で教室を出ようとした。久土和が先頭に立ち、元音は彼の後ろに続く。  自身の前を歩く久土和の大きな背中が目に入り、元音はつい先程のカツアゲから生徒を救い出す彼の姿を思い出していた。 「そういえば、カツアゲなんて物騒だったね。久土和一発で追い払ってたね」  元音が軽い口調でそう告げる。途端、彼はこちらを振り返りながら首筋に手を当て「あれ、見てたんか?」とやけに焦ったような表情を見せ始めた。彼の瞳は揺れ動き、明らかに困っているのが目に見える。  その久土和の様子と返答に元音は疑問を抱いていると彼はボソリとこんな声を漏らし始めた。 「バレないようにと思ったんだけどなあ」 「それは声が聞こえたから……」  元音はその場で立ち止まったまま彼の言葉にそう声を返した。  すると久土和は身体をこちらに向け、元音に視線を合わせ直すとこんな言葉を返してくるのだ。 「そか、悪い。配慮が足りんかった」 「え、別にそんなのはいいけど……ていうか久土和が謝る理由なんて」  彼の予想外の言葉に元音は動揺する。久土和は感謝される側だろうに、何故謝罪をするのだ。  そう疑問に感じながら向かい合う彼を無言で見つめる元音に久土和は口を開く。それは全く予想もしていない言葉だった。 「実はな、カツアゲしてた連中がその辺まだいるんじゃねえかと思ってさ」 「……えっ?」
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