13人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ
「おっ平ちゃん! ゆっくりしてってくれな!」
すぐに元音に気が付いた久土和はそう言って歯茎を見せながら笑う。元音はそんな笑顔にキュンとやられながらうんと答えていた。
彼と会話をしたいのは山々だが、そろそろ本格的に活動が始まる時間帯だろう。そう思って出過ぎた真似をする事は避けていた。
元音は静かに彼を見守っていると、いよいよ部活動が始まるようで、部員全員が顧問の前に集まり出す。
そうして顧問の掛け声で皆は一斉にウォーミングアップを始めた。元音は真剣に参加する久土和の様子に注視しながら彼の部活姿を見届ける。
久土和は部活に真面目に取り組む男の子なのだと、改めて今回の見学で知ることができていた。
笑顔のない真剣な表情をした彼はいつもと違う様子でありとても新鮮だ。
その中で時折見せる笑顔がまた魅力的に感じられる。元音は取り憑かれたように久土和だけを見つめ続けていると、いつの間にか時間は過ぎてしまっていた。我に返ったのは再び斉藤に話しかけられた時だ。
「鉄平さん、久土和君の事しか見てないねえ。ほんっとうに好きなんだね」
「!! はい、もう本当に大好きです」
突然の声に一瞬驚きながらもすぐに頷いて彼女の言葉に同意する。
そんな元音の様子を見て斉藤は笑みを向けながら「応援してるね」と声援を送ってくれていた。
斉藤はその後部員たちの練習スケジュールの管理が必要なのだとタブレットを用意して入力を始め、元音も静かに再び久土和の方へ視線を戻すと、彼の活動に取り組む素敵な姿に魅了され続けるのであった。
第十五話『柔道の姿が見たい』終
next→第十六話
最初のコメントを投稿しよう!