第十六話『ファミレス』

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 その質問は少し前、美苗(しえ)可菜良(かなら)にもされた事があった。しかし元音(もとね)の答えは一貫してノーである。その理由は、元音が柔道に興味がないからだ。  今回見学に行った理由も久土和(くどわ)が柔道をしている姿を目にしたかったからであり、決して柔道というスポーツを見たかったからではないのである。  確かに久土和のかっこいい姿を毎日見られる柔道部のマネージャーは、元音にとっても素敵な眼福ポジションではあるのだが、しかしそうであってもマネージャーにならない理由はしっかり持っていた。  それは、久土和目当てでマネージャーになれば、後々彼に迷惑がかかるからである。  いくら久土和が好きでも元音が柔道に興味を持つ事はない。彼が柔道をし続ける姿が好きなのであり、久土和がしていない柔道は元音の興味の対象外なのだ。  だから、たとえば久土和が何かの理由で柔道部を休んでしまえば、元音も当然のようにマネージャーの仕事を放棄するだろう。  そういった事が続くと鉄平(てつひら)元音というマネージャーは使い物にならないと言われ、久土和への評価は勿論、柔道部全体に迷惑がかかり、久土和の部活動にも支障が出るかもしれない。  総合的に考えて久土和の迷惑になってしまう確率が高いのだ。それにやっぱり簡単に仕事を放棄する女だと嫌われたくはない。  久土和のいない部活動に出たいとは思わないし、彼がいない時間もせっせとマネージャーの仕事をしたいとは元音には思えないのだ。  そういった理由から元音はマネージャーの仕事を安易に始めたくはなかった。見学が一番元音にとっての良い位置関係なのである。
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