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元音は本心を口にして久土和にお釣りを返そうと鞄のチャックを開け始める。
カルボナーラの金額は七百五十円だ。そのため、二百五十円を彼に渡す必要があるのだ。
お釣りを返す時に手が触れたらいいななどと邪な考えを浮かべながら、元音が財布を探していると「釣りは要らねえから気にすんな!」と久土和にストップをかけられたのである。
「平ちゃん見学まで来てくれたからな、これくらいはしときたかったんだよ。大した額でもねえしそのまま仕舞ってくれ」
そう言って心から楽しそうに笑う久土和に元音は見惚れる。なんて素敵な王子様なのだろう。何度も感じるこの感情は、何度も感じながらも積み重ねるごとにもっと大きくなっていくのを現在進行形で体感していた。
「見学に行きたいって言ったのはわたしの方なのに、ファミレスにも誘ってくれて、話し掛けてくれて、奢ってくれるなんて……本当に好きです」
感情が爆発しそうになった元音は、思いのままに彼にそう言葉を告げていた。すると久土和はその元音の台詞に、こんな言葉を返すのだ。
「感謝してんのは俺の方もだ。平ちゃんの気持ちに応えらんねえのに、そうやっていつも話し掛けてくれんの、マジで感謝してんだぜ」
久土和は目をうっすら細めると、そう言って優しく言葉を紡いでくれていた。彼がそれを心から感じて真っ直ぐに伝えてくれることが、元音にとっての幸福だった。元音は対面する久土和の目をしっかりと見つめると、再び口を開く。
「わたし、振られても久土和くんの事ずっと好きだから、話し掛けない日はないと思う……久土和くんが迷惑じゃなければ」
「全然迷惑なんかじゃねえよ、むしろありがとな! それとな、一つ確認しておきてえ事があってよ」
「?」
久土和は少しだけ眉根を下げると次にこんな言葉を口にする。それは、元音を案じた内容の話であった。
「最近平ちゃんと俺の変な噂が出回っちまってるだろ? あれ結構平ちゃんには酷なんじゃねえかって心配でな。噂は消せねえが、もし困ってたら噂の否定くらいなら俺にもできるからよ、それも今日聞いときたかったんだ」
(わ……………………)
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