第十七話『重なり続ける親切心』

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 久土和(くどわ)は『元音(もとね)は久土和を好きではない』と周囲に否定する事で、元音に関する噂を払拭しようと考えてくれていた。  しかしそれは元音にとって久土和への感情を嘘でも否定する事になってしまうのだ。それは嫌だった。  自分の意志を彼に正直に伝えた元音はそのまま彼に笑いかけ、続けてお礼の言葉を述べる。 「だけど久土和くんがわたしの事考えてくれてそう提案してくれたの、すっごく嬉しいっありがとうっ! えへへ、本当にかっこいい人だね」  久土和のあまりにも親切心あふれた今回の一件に、元音は彼以外に出来た人間がいるのだろうかと感じる。  すると久土和は元音の笑顔を見返しながらそうか! と声を返して、再び口を開いた。 「それならいいんだ、時間取らせて悪いな! けどなんかあったらすぐに相談してくれな、いつでも力になるからよ!」  そう言って太陽のような明るい笑顔を向けてくれていた。それに元音がうんと笑って答えると、彼は満足した様子でそろそろ帰ろうと口にし、二人で足を進め始める。  外はすっかり暗くなっていたが、久土和が隣にいる事で帰らなければならないこの状況に元音は強い惜しさを感じていた。  しかし帰る以外に選択肢はない。  もう遅い時間で、これ以上二人きりでいる理由はないのだ。  それに疲れているであろう久土和も早く帰って休みたいところだろう。だからこの気持ちを自分勝手に口に出すことは元音にはできなかった。  そんな元音の感情を知るはずもない久土和は楽しそうな声音でこちらに話し掛けてくれており、元音は未練のある感情を心に隠しながらそのまま帰路に着くのであった――。
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