第二話『行動』

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第二話『行動』

 帰り道は久土和(くどわ)との初の下校を体験し、心臓の音が終始うるさくて幸せで堪らなかった。  楽しすぎて元音(もとね)の気持ちはこの十六年間の間で一番幸せを感じていると言っても過言ではない。  自宅に着いてからも元音の脳内には久土和の笑い顔が浮かんでおり、彼を王子様と何度も頭の中で呼んでいる。  金髪にハンサムですらっとした細身体型の王子様。勉学にも長け誰にでも優しく笑顔が眩しいまさに完璧の存在。そんな男性が好みだった筈だ。  それはこの十六年間でずっと頭に思い浮かべ生きてきた元音の憧れそのものであったのだ。だが、その長年求めてきたはずの存在は今日の出来事で一瞬にして覆っていた。  久土和勝旺(かつお)。短髪で赤い髪を尖らせ、前髪だけ何故か八割程アップバングになっているが、あれはお洒落からくるものではないだろう。紳士用のジェルで整えている様子も全くなく、寝癖なのだとすぐに分かるからだ。  そしてハンサムとはかけ離れた目つきが良いとは言えぬ細いツリ目。いつも顔のどこかに貼られている謎の絆創膏。  勉強に関しても成績がいいとはお世辞にも言えない。よく教師から名指しで居残りを命じられるところを何度も目にしていたからだ。  強面の見た目に反して笑顔は常に絶やさない印象があるもののそれは元音が求めていた爽やかな美しい笑みとは程遠い。  だがそれでも、元音は久土和の全てに惹かれていた。憧れ続けてきた王子様への恋は完全に久土和という一人の男だけを見ているものへと移り変わっている。
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