第十八話『見学二回目』

4/5
前へ
/251ページ
次へ
「…………は?」  口を開けば、自分が思っていたより大きな声が出ていた。それに意表をつかれた様子を見せる二人の反応を待つ前に、元音(もとね)は言葉を続けて放つ。 「クールな性格とか全っっ然毛ほどもときめかないし!!! メガネで生徒会長みたいな人もまっったくかっこいいと思わないの!!!」  クールながらに友人が多く勉学にも長けるところが素敵だと人気者の浦壁(うらかべ)にも、知的な雰囲気だと噂されている人気者の二階堂(にかいどう)にも元音はまったく、本当にまっっっっっったく持って興味はない。  彼らなんかにときめけるのなら、久土和(くどわ)に出会うまでに何回だって恋心を経験していると言うものだ。元音の理想の高さを舐めないでほしい。 「わたしはね、ちゃんと理想があったんだよ」  元音の大きな声はいまだに収まらない。すっかり元音のペースに巻き込まれた二人は口を挟む事もできないのか、ポカンとした様子でこちらをただただ凝視していた。  しかし元音はそんな視線には構わず、もう今後一切彼女らに変な言いがかりを付けられぬよう開いた口を止めない。  そのまま自分のこれまでの理想像を延々と語り始める事にしていた。  久土和に恋をしてからもうすっかり忘れてしまっていたが、自分は元々このような理想を抱いていたのだと、彼女らに熱弁することでそれを思い出す。  ただイケメンなだけで誰でも好きになれると思わないでほしい。元音の理想は遥か先にあり、イケメンはただの前提条件に過ぎないのだと、言葉を並べ立てていく。  そしてイケメンに少し毛が生えた程度の長所があったところで、元音の理想にはまだまだ及ばないのだとそれも説明を加えてやる。  十分程だろうか、その間散々目の前の彼女らに語り尽くした後に元音は最も重要な事を伝えていた。 「だからね、どんなにイケメンでも全てが合致しないと無理だから! それにわたしだってちゃんと素敵な王子様見つけたし、その人以外の男なんて視界にないから! 決めつけないでほしい!」  元音の勢いに圧倒されていた二人は、瞬きもせぬままこちらをいまだに凝視している。 「言っておくけど、わたしの王子様は久土和勝旺(かつお)くんだよ。わたしあの人以外を男と思えないの。間違ってもこの先久土和くん以外の男なんて好きにならないから、安心してっ!!!」  言い切った。  もうこれで彼女らが疑いを向けてくる事はないだろうと、不思議な確信を得る。そのままトイレを後にすると、元音は満足した様子で体育館に戻っていくのであった。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加