第十八話『見学二回目』

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「おかえり。遅かったねえ」 「えへへ、御免なさい」  体育館に戻ると、マネージャーの斉藤(さいとう)が出迎えてくれる。彼女は不思議そうにこちらを見ていたが「久土和(くどわ)君もう来てるよ」と嬉しい報告をしてくれていた。 「わっありがとうございます! やっぱり道着姿かっこいい〜」  なるべく小声でそう感想を口にすると、斉藤は口元を緩めながら楽しそうに「青春だねえ」と口にしてくる。いやはや斉藤も一歳しか違わないのだから、面白い表現だ。 「先輩は好きな人いないんですか? あ、ひょっとしてもう既に付き合ってたり?」  元音(もとね)はいつの間にか一人の人間として斉藤に興味を持っていた。まだ二回の付き合いだが、彼女は最初から優しく接してくれ、とても良い人柄だと感じられていたからだった。そのため彼女の恋バナにも興味がある。  すると斉藤はいやいやいないよと手を振って苦笑いを見せてきた。 「一時期片思いはしてたんだけどね、もう今は好きな人いないな」 「そうなんですね、きっと素敵な人できますよっ」  斉藤の恋バナが聞けないのは残念であるが、過去に捨てた恋話を聞きたいとは思わない。本人が聞いてくれと言うのなら話は別だが、斉藤の方からも語ろうという姿勢は見られなかった。元音は斉藤にそう言って前向きな言葉を向けると、彼女は明るい笑みを見せながらありがとうと元音の頭を撫でてくれた。 「さ、今日も久土和君のかっこいい姿たくさん目に焼き付けて楽しんでいってね」 「はいっ!」  彼女とそんなやりとりをしながら元音は柔道部の見学を楽しむのであった。 第十八話『見学二回目』終                next→第十九話
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