第十九話『転変と気付く乙女』

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 元音(もとね)久土和(くどわ)との会話が楽しくて仕方がなく、彼の前で笑みが崩れる事が一切なかった。いつもの事ながら、久土和といると自然と口角は緩むのだ。 「今日は帰って勉強するの?」  元音が素朴な疑問を問いかけると、彼は笑いながら「さすがにやらねえとな」と言葉を返してくる。  久土和は勉強が得意ではないようで、前に勉強会をした際にその事を聞いていた。純粋に可愛らしいと思う。 「わたしも夜更かしで勉強だなあ」 「おっ? 平ちゃんでもまだ勉強すんのか?」  もう充分勉強してるように見えるけどなと付け加えてくれる久土和に元音は感動する。  彼の口から聞く元音の印象は、久土和にとって優等生のようなのだ。それが不思議で、しかし嬉しかった。 「わたしも勉強好きってわけじゃないからいつも真面目にはしてないんだ。でも今日は限界まで頑張るつもりだよ〜っ最近夜更かしはよくしてるし、三時くらいまでなら出来そう」  そう、何を隠そう元音は久土和の妄想で夜更かしを度々している。恋に落ちる前から深夜の妄想は癖になっていたものの、久土和を好きになったからその回数は確実に増えていた。 「勉強したいってんなら止めねえけどよ、(よい)っぱりは良くねえぜ」 (えっ)  すると久土和は笑って声を返してくれるかと思いきや、そのような正論を口に出してくる。元音は驚きながらも自身の心臓が一気に跳ね上がるのを感じていた。 (心配してくれてるっ!!? えっ彼氏みたいっ優しい!!!) 「健康第一だからな! 無理はすんなよ」  そう言うと今度はニカッと笑みを向けてくる久土和に、もう元音の心は神域に達していた。  久土和は意見を言う時は真面目なのに、その後必ず王子様スマイルを見せてくれるのだ。あまりにも優しすぎる。幸せすぎて、心臓の音はしばらくの間平常モードに戻りそうにない。
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