第二十一話『予定外の元音』

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(やだやだ怖い、こんな暗いとか、お化け屋敷じゃん!)  肝試しの順番が回ってきてから早速ウキウキとした様子で歩き始めた元音(もとね)であったが、しかし自分はとてつもなく大事な事を忘れていた。そう、元音はホラーの類に恐怖心を抱きやすいのだ。 (えっこれあとどれくらい歩くの……っ!? 長いっ長すぎる!)  林に囲まれた森の中を歩き始めて約三十秒。元音はすでにリタイアしたくて仕方がなかった。  先程まで久土和(くどわ)と二人きりで夜の散歩だと浮かれていた自分を殴ってやりたい。あまりにも彼とのイベントが楽しみで、怖い事を放任していたのだ。 「平ちゃん大丈夫か?」  元音はあまりの恐怖心から無意識に久土和の腕にしがみついていた。  そして無言で地面を見つめ、慎重に歩を進める。  久土和から心配されていることに嬉しい気持ちがあるのは確かだが、それでも今は怖いというこの恐怖心が元音の心を支配していた。 「こわい……」  そうか細い声で呟き、再び久土和の腕にぎゅうっと手を絡める。  自分にもっと余裕があればこのような状況、きっと計画的に行えたであろう。  怖いと言いながら久土和の腕に魅惑的に絡み付ける絶好のドキドキシチュエーション。肝試しだからこそ許されるそんなビッグイベント。だが今はもう本当にそれどころではなく、ただただ怖くて仕方がなかった。 「ひゃああっ!!!」
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