第二十一話『予定外の元音』

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 ガサッと音がして周りを見渡すと、そこには白い着物をきた女の霊がいた。元音(もとね)はあまりの恐ろしさに久土和(くどわ)の背後に顔を埋め、理不尽に体を震わせてしまう。 「平ちゃん、こりゃあよくできた人形だな。幽霊じゃねえから安心だぞ」  すると久土和の声が頭の上から降りかかり、顔を見上げると彼の笑顔が元音を優しく見下ろしていた。瞬間、元音の心は暖かくなったのを実感する。  そうして彼は元音の頭に大きな手をポンと置くと「うちの名物っつー肝試し、先公が色々用意してるみてえだな。平ちゃん怖えだろうけど、少しの辛抱だからな」と言ってもう一度元音の頭にポンと手を置く。  撫でるというより頭に手を置くその彼の行動は酷く頼もしくて心強かった。 (守ってくれる王子様……)  恐怖でどうにかなりそうな元音が、肝試しが始まってようやく彼への愛を再認識できた瞬間だった。 「平ちゃんは後ろからついてきてくれな。離れたりしねえから不安がる必要ねえぞ。しっかり掴んどけよな」  そう言って久土和はもう一度こちらに笑いかけると、彼は親指を立ててニカっと歯茎を見せてきた。  元音が大好きないつもの久土和の眩しい笑顔は、元音の不安を少しでも薄めてくれる大きな要因となっている。 (王子様……)  久土和の頼もしい大きな背中を頼りに元音は彼の背中の裾を摘んだ。そうして彼の後に続くように足を進めていく。  肝試しはただ歩くだけでなく、次々と様々な脅かし要素が待ち受けており、元音は終始弱々しい悲鳴を上げ続けていた。  しかし久土和は言葉通り、一切こちらの手を振り解くことなく、むしろ何度ももう少し頑張れ大丈夫だと声をかけ続けてくれており、久土和の優しさがとてつもないほどに知れた時間でもあった。  元音は恐怖で真っ青な顔になりながらも、久土和が側にいてくれるという嬉しさでなんとか肝試しを乗り切ったのである。 第二十一話『予定外の元音』終               next→第二十二話
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