第二十二話『あーんを目論む』

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第二十二話『あーんを目論む』

「やっぱ? 元音(もとね)、なんも言わんから克服したんかと思ったわ」  恐怖の肝試しが終わり、それぞれホテルの一室に戻っていた元音は美苗(しえ)可菜良(かなら)に肝試しの報告をしているところだった。  怖すぎて萌えどころではなかったと正直な報告を終えると、美苗は特に驚いた様子も見せずそう口にするのだった。 「だって、久土和(くどわ)くんと夜のお散歩だって考えたらそれどころじゃなくて……」 「入る直前まで怖さを忘れられる神経は普通に凄いけどね、まあ王子が守ってくれて良かったじゃん」 「元音は怖がりだもんな〜でももう大丈夫! なんなら一緒に寝る?」  そう言って美苗と可菜良に慰められながら元音は修学旅行の最後の夜を終えようとしていた。  確かに怖くて仕方がなかった肝試しだが、久土和がずっと元音を守ってくれていた事を思い出すと、元音は次第に明るい気持ちを取り戻せていたのである。 (えへへ、守ってくれて最高にお姫様みたいだったな……えへ) 「あ、もう大丈夫そうだ」 「元音は王子がいれば結構立ち直るのも早いよね〜! いいことだ!」  元音の表情から読み取ったのか、二人はそう言って口元を緩めると元音の頭を撫でながらそろそろ寝ようかと電気を消し始める。  元音は話を聞いてくれた友人二人にお礼を言いながら、ベッドの中で久土和の事を思い浮かべていた。 (久土和くん、ありがとう。大好き……一緒にペアになれて、本当に良かった)  もしペアの相手が久土和でなかったら、元音はどうしていたのだろう。王子でもない男にしがみついていたのだろうか。否、それは断じてあり得ないだろう。  確かに久土和にしがみついた事は元音が無意識で行っていた事だが、元音は絶対に久土和以外の男に容易く触れないと強い信念を持っている。  だからこそ、もし久土和以外の男と歩くことになっていたとしたら、きっと自分の殻に篭ってその場で動けなくなっていたかもしれない。無意識であろうと好意も何もない異性に抱きつく事を心のどこかで制御しているだろう。 (明日改めてお礼言おうっ)  元音に呆れることもなく、否定的な言葉を一切出さなかった久土和を心底愛おしいと思う。  久土和の事が本当に好きだと、何度も何度も頭の中で胸に刻み込みながら、元音は夢の世界へ入っていくのであった。
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