第二十二話『あーんを目論む』

3/5
前へ
/251ページ
次へ
(焼きたて好きなんだ……えへっ)  そう思いながら彼の背中を見送っていると、数分してから久土和(くどわ)が戻ってくる。  久土和は元気な声で「たくさんあったぜー!」と嬉しそうにお皿に大量のパンを乗せて戻ってきていた。これは……可愛すぎる。 (食いしん坊王子様好きっ!)  久土和が多種類のパンを持ってきたことで彼の隣に座っていた岩根(いわね)雨宮(あめみや)は「俺たちもとってこようぜ!!」と口を揃えてその場を離席する。  すれ違うように久土和が席に着席すると、一緒に持ってきていたバターを器用にパンに塗りながら彼は美味しそうにパンを頬張り始める。 「クロワッサンはなかった?」  そこで気が付いたのは、久土和のパンのお皿にはクロワッサンだけが見当たらなかった事だ。  久土和はもしかしたらクロワッサンを好きではないのかもしれないとそう考えていると、彼はもう在庫がなかったのだと答えてくれる。 「じゃあこれ、あげるよ」  こんなに美味しそうにパンを食べる久土和を見ていたら、なんでもしたくなってしまう。  元音(もとね)は自身のまだ手をつけていないクロワッサンを手に取ると、そのまま久土和の口元までそれを持っていく。これは、このまま彼にあーんをさせようという邪な作戦でもあった。 「……っ」 (あれ?)  すると久土和は元音に向けていた視線を逸らし、しかしすぐにこちらに顔を戻してくる。元音の手は彼の近くで止まったままだ。どうしたのだろうか。もしかして、ひょっとしたらひょっとして照れているのだろうか?
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加