第二十三話『ハイパーミラクルスペース級急展開』

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「補習は全科目これで終了です。二学期は補習にならないよう勉強に励みましょう」  教師がそう口にして教室を後にすると、補習に参加していた生徒たちはどこからともなく歓声を上げる。  そうして解放感で満たされた者たちは嬉しそうにはしゃぎながら友人らと談笑を続けて下校し始めていた。  元音(もとね)は補習仲間であった空名(くな)と話をしながら帰り支度を終えると久土和(くどわ)の方へ視線を向けていた。何かを察した空名は「がんば!」と言って楽しそうに教室を出ていく。 (夏休み……)  元音は夏休みの間、一度だけでも彼とどこかで遊べないだろうかと目論んでいた。  レインで誘うよりも、対面しながら久土和にお誘いをしたいという妙なこだわりがあり、補習日である今日までそのお誘いを胸の中に仕舞い込んでいたのである。そしてそれを表に出せる日が今日であった。  久土和に早速話し掛けようと元音は彼の席を見つめるが、久土和はまだ友人らと楽しそうに談笑を続けていた。  急いでいるわけでもないので、会話が終わるのを待っていようかと思い至った元音は席を立ち、トイレに向かう。気が付いたら彼が帰ってしまわないよう早足でトイレを済ませると、教室に戻る途中の廊下で奇跡的にも久土和と出会していた。 「久土和くんっ」 「おっ平ちゃん! 補習やっと終わったなーっ」  目が合った途端、晴れやかな笑顔でこちらに声を向けてくれる太陽のような王子様に元音の心臓は激しく動き出す。  先程まで騒がしかった廊下も、補修が終わってからそれなりに時間が経過していたためか、静まっている。故に廊下にいるのは久土和と元音の二人だけだ。これは、二人きりという状況だと言っても間違いではないだろう。 (今日初めての会話だ……嬉しい)
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