第二十四話『デート』

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 久土和(くどわ)にいいところを見せたいと思いながら小銭をゲーム機の中に投入していく。  しかしゲームが開始され久土和に見守られながらクレーンを動かしていくが、結局最初の段階で景品を一ミリも動かすことは叶わなかった。  クレーンゲームもといUFOキャッチャーはゲームセンターに来てよくするゲームの一つであったが、それでもするからといって得意なわけではない。  ただゲームを楽しんで、それだけだ。元音(もとね)が景品を入手できた経験は一度もなかった。  店員に景品を動かしてもらっても獲れた試しは一つもない。まあ喉から手が出るほど欲しいものもなかったのでいいのだが、とにかく元音は決してクレーンゲームが得意ではなかったのだ。 (やっぱりムズイなあ……)  そう思いながら数回試してみるが、やはり景品はビクともしない。  あまり久土和にカッコ悪い姿を見せるのも嫌だったので、他のゲームをしようと彼に告げようとしたところで久土和は「俺もやっていいか?」と尋ねてきた。 「えっ、勿論!! どれ狙うの!?」  その一言で久土和もクレーンゲームをするのかと嬉しい気持ちが湧き起こる。  自分のやっていたゲームを見て彼も便乗しようとしてくれた事が嬉しかった。これぞデートというものだろう。にやけそうになる口元を必死で堪えながら元音はどの景品を狙うのか問いかける。  すると久土和は、元音がつい先程まで行っていたクレーンゲームを指差してこんな事を口にしてきたのだ。 「平ちゃんが欲しかったのはこいつだよな?」
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