第二十四話『デート』

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 彼が指を差す景品は元音が最初から狙っていた猫のマスコットだ。元音(もとね)はうんと頷くと途端に心中から激しい喜びが駆け上がってくるのを実感していた。 (えっえっええ〜〜〜!!!? ちょっと待って! 久土和(くどわ)くん、わたしが獲れなかったから、獲ろうとしてくれてるっ!? ほんのちょっとだけ期待はしてたんだけど、まさかほんとにこんな展開になるなんてっ!! 嘘っめっちゃ優しい〜〜〜〜〜〜っ王子様っ!!!)  元音が獲得できなかった景品を自分も狙おうとしてくれる彼の姿勢が、とても嬉しかった。  このような光景は男女問わず友人の間でもよくある行動なのかもしれない。  それでも、元音が恋焦がれる久土和が、元音の欲しかったものを代わりに入手してくれようとするこの行為がとてつもなく嬉しかったのだ。この喜びは、久土和からしか感じられないだろう。 「よしっやってみるぞ!」  すると久土和は意気込んで楽しそうにお金をゲーム機に入れ始める。そうしてすぐにゲームが始まり久土和は真剣にクレーンゲームに向き合っていた。  結果的に景品は手に入らなかった。だがそんなことはどうでもいい。久土和が元音のために自分のお金を使ってまで景品を獲ろうとしてくれた厚意が心の底から嬉しかったからだ。  久土和は数回試した後、獲れなかった事を悔しそうにしてはいたが、元音が全然大丈夫だと言うとそれ以上引きずる様子もなく、すぐに楽しい雰囲気に戻してくれていた。こういう切り替えが早くて相手に気を使わせまいとしてくれるところも、とても好きだ。 (久土和くんがわたしの為に真剣にゲームしてくれてたの……ほんとすきっ)  むしろクレーンゲームには感謝しなくてはならない。久土和への愛を再認識する事ができた。いやもういつもしているのだが、再認識する回数が増えた事に感謝していた。  時間はあっという間に過ぎ、昼ご飯を食べようという話になる。二人で相談して選んだお昼ご飯はたこ焼きだ。 (久土和くん、たこ焼き好きなんだあ〜ふふっ覚えとこ!)
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