第二十六話『お呼びでないライバル』

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 放課後になるといてもたってもいられず、柔道部の見学に向かう。  久土和(くどわ)には予め休み時間に話をしてあり、彼からも歓迎の声が返されていた。 『昨日に続いて今日も来てくれんのか! こっちは大歓迎だぜ! ありがとな!』  久土和の優しくて嬉しい言葉を頭で思い起こしながら元音(もとね)は足を進める。  彼は早めに部活に向かう必要があるようで、今回は別行動で部活場に向かう事になっていた。  元音は久土和の対応に嬉しい思いを抱きながらも、その反面では怖い想像を繰り広げている。  雲園(くもぞの)はきっと部活に訪れるだろう。  あんなに強気でいるのならアピールだってたくさんしていくに違いない。そう警戒していた元音は想定通りに彼女が柔道部の活動場にいたことに驚きはしなかった。 「鉄平(てつひら)先輩、来たんですね。私、今日から柔道部のマネージャーになりました」 (マネージャー……) 「鉄平さん今日も来てくれたんだ! 知り合いみたいだけど、今日からこの子もマネージャーになったんだ。仲良くしてね」  すると何も知らないであろう斉藤(さいとう)がそう言って元音に雲園を紹介し始める。元音は雲園と視線を合わせながら無言で火花を散らせていた。 「はい、斉藤先輩。雲園さん宜しく」 「おっ新マネって君?」  するとひょいとこちら側に顔を覗かせに来た柔道部の部員がそう言って雲園の方に目を向ける。  その部員は仄かに顔を赤らめさせ、雲園を見つめていた。そしてそれはその部員だけではなく、柔道部数人の視線が雲園に集められている。彼女は容姿が良いので周囲からの視線をもらいやすいのだろう。 (可愛い……)  悔しいが雲園の可愛さは元音も認めざるを得なかった。それほどまでに可愛らしく可憐な見た目をしている。  おまけに小柄でつい守ってやりたくなるようなそんな外見なのだ。一般的な男の好みにぴったりな彼女の姿は、強敵すぎるライバルそのものであった。 (久土和くん……好きになったりしないでほしい…)  そんな願望を持ちながらも、彼の心は彼のものだ。  久土和の心を元音が操作することは出来ないし、彼が雲園に惚れてしまう姿は正直想像してしまっている。  元音は頭をブンブン振りながら気持ちを切り替えると、少し離れた場所にいる久土和の姿を目に映し、彼への愛を心中で唱える。 (大好き。大好き……大好き久土和くん)  久土和が元音の心中を察している筈はなく、彼は真剣に部活に励みながら元音の心を奪い続けていた。
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