第二十六話『お呼びでないライバル』

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 学校に到着するといつものように可菜良(かなら)美苗(しえ)が話しかけてくる。  二人は昨日元音(もとね)にライバル的存在が現れたことを知っていた為、こちらを気にかけてくれているようだった。  二人に大丈夫かと心配され、元音は笑みを向けながら大きく頷く。  昨日は確かに相当参っていたのだが、もう元音の中で結論は出ている。  この先不安に駆られる事は多くなるだろうが、それでも久土和(くどわ)を諦める事は絶対にないのだ。  その強い思いを二人に話すと、可菜良と美苗は元音の頭を撫でながらこちらの気持ちを肯定してくれていた。 「元音ってほんと一直線だよね〜そういうとこ好きだぞ」 「けど辛い時はいつでも言いなね、あんた打たれ弱いとこあるから」 「可菜良、しえちん……ありがとっっ!!! えへへ、いい友達持ったなあ〜っ」  友人二人の優しい気持ちに元音の心は温かくなる。じんわりと胸が優しい思いで包まれていると、聞き慣れた大好きな声が元音の耳に響いてきた。 「おっす!」 「おっ久土和ー!! 今日もおせーな!」 「ははっまだ三分あるから問題ねえだろ!」  久土和はそう言って笑いながら友人からの指摘に声を返す。いつも通りの久土和の姿に元音の心は幸せだった。  そうしてそんな元音を見ていた美苗と可菜良の二人に文字通り背中を押され、元音は礼を言いながら久土和の方へ足を進める。  久土和の名を呼ぶと、彼は少しの間を置く事もなくこちらを見て「平ちゃん! おっす!」と明るい挨拶を向けてくれていた。  キュンと胸が弾む元音はすぐさまおはようと声を返す。そうして第二の話題を彼に振っていた。 「久土和くん、また今度見学に行くねっ」 「おう! 楽しみにしてるな!」 (えへへへへ……好きっ) 「ありがとうっ今日も好きですっ」 「ははっサンキューな!!」  いつもと変わらない日常的な会話を久土和と交わす。元音にとっての最高の時間は僅か二分程で終了となっていたが、それでも満足だった。 第二十六話『お呼びでないライバル』終               next→第二十七話
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