第二十七話『特別』

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第二十七話『特別』

 あれから数日が経ち、元音(もとね)は今日こそ部活の見学に向かおうと席を立つ。  柔道部の見学ももう五回目だ。部員ではないため以前のように気軽に見学に行けない状況にはなってしまっている。  それに最近は文化祭の準備で忙しいというのも相まって、元音が見学に行ける機会は大変貴重なものとなってきているのが現状だ。 (雲園(くもぞの)さん、毎日来ないはずないよね)  ライバルである雲園の事を考える。  雲園は久土和(くどわ)に毎日のように部活内で接触を図り、最終的には彼を自身の恋人にと考えているであろう事は確実だ。  元音がその光景を目にしたのは僅か一日であるが、それでも彼女の本気度は本物であった。あれは完全に恋する女そのものであり、元音の天敵だと声を大にして言い切る事が出来る。  そして最近は久土和も部活で忙しいらしく、元音と一緒に部活に向かえる事は少なかった。  元音はそれで全く構わないのだが、久土和は行けない度に「一緒に行けなくてすまんな平ちゃん」と謝ってくれていた。  そんな彼の優しさが元音の気持ちを幸せにしてくれる。幸福な気持ちを胸の中に感じながら元音は部活の見学に足を向けるのであった。
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