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「こんにちは鉄平先輩」
「雲園さん、久しぶり」
体育館の扉を開けると、一番最初に目が合った雲園がこちらに挨拶を向けてくる。
彼女の表情は笑みを作っており、特に嫌味は感じられない。感じられないのだが、彼女が何を思っているのかは直接言われなくとも何となく伝わってきていた。
『久土和先輩は渡しません』
そんな言葉が直接元音の頭の中に流れ込んでくるように元音は雲園の気持ちを読み取れている。
まるでエスパーのような話だが、同じ人が好きな者同士にしか分からない空気があるのだ。元音も嫌味は持たず挨拶だけを返していると、すぐに斉藤がやってきて元音の方へ親しげに話しかけてきてくれていた。
「鉄平さんやっほー。今日も来てくれたんだね! 文化祭の準備はどう?」
斉藤とは世間話をするまでの仲になっている。彼女との会話が好きな元音も、斉藤と何気ない話ができる事は嬉しい事であった。
そのまま斉藤と会話を続けていると、久土和や残りの部員達が体育館にやってきて本格的に部活動が開始される。
元音は彼のカッコ良い姿を目に焼き付けながら今日も見学ができる事に喜びを感じていた。真剣な顔つきで部活に励む久土和をうっとりした瞳で見つめ続ける。
いつまでだって見飽きない自信がある元音は、久土和のあまりにも逞しく素敵な姿に見惚れながら部活の見学に集中していた。
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