第二十七話『特別』

3/15
前へ
/251ページ
次へ
 部活は何事もなく終了し、次々と部員が体育館を後にし始めていた。  人が少なくなってきたところで元音(もとね)もそろそろお暇しようかと考えていると、予想外の声が耳に入ってくる。雲園(くもぞの)の声だ。 「久土和(くどわ)先輩!」  彼女はライバルらしく何かと久土和に接触し、事あるごとにタオルを渡したりドリンクを渡したり、まあマネージャーらしい事と言えばらしい事をこの短時間でそれはもうたくさん行なっている様子であった。  横槍を入れたい気持ちが何度も芽生えてはいるし本当なら邪魔をしたいのだが、そんな元音を久土和は受け入れてくれるのだろうかと考えると恐ろしく、愚かな行動はしたくなかった。  だがしかし、気になる気持ちを抑える事は出来ないのも本心であり、今度は何をする気なのかと彼女の動きに警戒心を高める。  すると雲園は元音の史上最強に最も恐れる言葉を放ったのだ。 「放課後どこか食べに行きませんか? 前に久土和先輩は美味しいお店たくさん知ってるって聞いたので是非今日!」 「おう! いいぜ!」 (えー!!!!!!! だめやだだめやだ!!!)  瞬間口を開いて何かを言おうとする。しかし止める権利が元音にあるわけもなく、その上即答で了承する久土和の気持ちを否定したくはなかった。  無言で口を開いていた元音はそのまま数秒静止し、ようやく口を閉じる。けれどどうしても二人のデートを認めたくはない。 (やだーっっっ!!!!! 二人だけっ!? 誰か同行しないのっ!!? デートってことなのっ!!?)  感情が慌ただしくなり元音の鼓動はだんだんと速くなっていく。いつもの鼓動の速さとは全く意味が異なるこの脈の速さは元音の負の感情を生み出し、二人の会話から目が離せなくなっていた。 「やった!! 久土和先輩の食通の凄さを最近他の先輩から聞いたんです! 私グルメ狂なんですっごく気になっちゃって!」 「おう! うまい飯屋なら任せとけ!」 「うふふ、楽しみにしてます! 終礼が終わったら昇降口で待ってますので、お早めに来てくださいね! もう腹ペコなんです!」 「はははっ腹ペコなんか! じゃあ美味くて早い飯屋がいいな」 (二人きりで夕食やだー!!!!!!! ヤダヤダ!!! キャンセルキャンセル!!!!!)
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加