第二十七話『特別』

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(牛丼屋か)  終礼が終わったのであろう久土和(くどわ)雲園(くもぞの)の二人が昇降口に現れると、元音(もとね)は二人にバレないよう身を潜めながら彼らの後ろをついて行っていた。  そうして二人が入っていったのは安くて美味しい、おまけに料理が出るのも早いと評判の牛丼屋であった。  さすがに広くないこの店に入るとすぐに尾行がバレてしまう為、中に入ることは出来そうにない。 (いいなー久土和くんと二人きりで牛丼屋さん)  今回の食事は雲園が自ら動いた褒美のようなものなのだから、彼女に非はないのは分かっている。だがライバルが意中の相手と二人きりで食事をしているなどとても心中穏やかではいられない。  それに久土和は雲園のことをどう思っているのか、とても気になるところだ。  彼女は女の元音から見ても可愛くて万人受けしそうな見た目をしている。久土和は誰に対してもフレンドリーな男の子であるが、雲園のような子がタイプだったらこの状況は大ピンチと言っても過言ではないだろう。 (告白とかしないよね……)  雲園が部活に入ってからまだ数週間だ。  彼女はここぞという時に告白をすると元音にライバル宣言をしたあの日にそう言っていた。  だからすぐに告白をする事はないと思うのだが、油断大敵である。  雲園の中では告白のチャンスを狙っているに違いないであろうが、それはどのタイミングなのだろう。  そして雲園に告白されてしまったら、久土和はなんと答えるのだろうか。元音の時のように振るのか、それとも付き合―――― (やだやだやだっ!!!)  そこまで考えて元音は大きく首を振った。彼の気持ちは彼にしか分からない。  久土和は誰にでもフレンドリーで意識していない女子と二人きりでも遊びに行けるそんな友好的な人なのだ。  雲園と二人でデートに行ったのも、決して彼女を好いていると断定できたわけではない。 (何話してるのかな……気になる)  店内の中は見えないようになっており、元音がいる場所からは二人がどこに座っているのかも分からない。 (はあ……)  その場で本来の目的である二人の様子を見る事もできない元音は頭を俯かせながらスマホを取り出す。二人が店を出てくるまでここで待っていよう。そう思いながら面白くもない乙女ゲームを起動させていた。
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