第二十七話『特別』

10/15
前へ
/251ページ
次へ
「ん? おう、分かってるぞ。どうしたんだ?」 「いや、いやいや分かってるのにおかしいじゃないですか。鉄平(てつひら)先輩尾行してたんですよ!? そんな人にご飯誘うんですか!?」  心底悔しいが雲園(くもぞの)の言う事は最もだ。正直元音(もとね)も後ろめたさがあったため、久土和(くどわ)の反応には驚いていた。  彼にバレないようにと行動していたのは見つかっては好感度が下がるのではないかと思っていたからだ。捺実(なつみ)の時のような状況とはまた訳が違う。  あの時は校内での尾行であり、今回は学校外まで及んだ尾行なのだ。自分でも異様な行動をしているとは分かっていたため久土和には見つかりたくなかったのである。  そして理由はもう一つある。それは彼が嫌がる事をしたくはないからだ。  流石にここまでの尾行なら、久土和にとって不快に感じてしまうのではと危惧していたが故のバレたくないという気持ちがあったのである。数秒前までは。 「おう、それは全然気にしてねえからな」  雲園の焦燥感に駆られたような疑問に久土和はあっさりとそう口を開く。久土和は全然気にしてないとはっきり口にしたのだ。 「気にしてないって……気味悪くないんですか!? 尾行なんてストーカーですよ!?」  納得していない様子で雲園は再び声を発する。彼女は久土和の回答に動揺を見せ、しかし疑問は尽きない様子だ。 「ははははっ雲園ありがとな! けど平ちゃんなら別に構わねえよ。気味悪くなんかねえし平ちゃんにだけなら俺は何されてもいいんだ」  久土和はそう言ってこちらを案じてくれているであろう雲園にお礼を述べると、そんな一言を放ってくる。その言葉に元音の心は大きく弾かれ、目はこれ以上ないほどに見開いていた。 (わたしにだけなら……?)
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加