第二十七話『特別』

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 明るい調子でそう口にした久土和(くどわ)の言葉に雲園(くもぞの)はすぐ頭を頷かせる。  そうして三人でそのままファミリーレストランへ足を運ぶ事に話が進んでいた。  この三人で行動することに対して元音(もとね)に気まずさはなかった。  雲園は尾行の事をもういいと口にしているし、それに久土和と今日これからご飯へ行けることがあまりにも嬉しかったからだ。  だが気まずさはなけれど雲園への敵意が露骨に浮き出てしまうと危惧していた元音は、久土和に迷惑がかからないよう気を付けねばならないと意識を強めていた。  正直敵対心が抑えられるかどうかは自分の事ながら不安であったが、せっかくあの状況を楽しい雰囲気に変えてくれた久土和の気持ちを台無しにするような事は絶対にしたくはない。  久土和と二人きりで行けないことに多少の残念さを持っていないと言えば嘘にはなるが、久土和がその素敵な優しい心で雲園にも声を掛けたのだ。久土和の気持ちは絶対的に尊重したかった。 「久土和くん好き」  ファミレスに滞在している中でそう言って彼に笑いかけると、久土和も笑ってありがとな! と声を返してくれる。  彼は今日一度も表情を歪めることなく元音に接してくれており、まあ久土和にそのような態度を取られたことは本当に一度たりともないのだが、その事実が空を飛べるほど幸せであることを実感する。 「わたしお手洗い行ってくるね」  雲園と二人きりにさせるのは嫌だったが、すぐに戻ってくればいいだろうと元音は席を立つ。しかしその心配はなかった。なぜなら雲園も「私も行きます」と席を立ったからだ。  これは彼女に何か言及されるのだろうと容易に察しがついていた。久土和に笑顔で見送られながら、元音は雲園と一列になってトイレへ向かう。話をする訳でもなく二人はそのまま足を動かし、女子トイレの扉を開けていた。 「鉄平(てつひら)先輩」
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